“賃貸余り”の時代。スペースの有効活用策
人口減少、少子高齢化等の影響で、賃貸住宅の空室率は上昇傾向にある。住宅としてバリューアップを図り集客力を高めることはもちろん、今の時代、別の生活利便施設に転用する発想も重要になるだろう。大阪府内で約2万1800戸の賃貸住宅を保有する大阪府住宅供給公社では、空き住戸を惣菜店にコンバージョンすることで、住宅や地域の魅力アップにつなげている。(月刊不動産流通では2019年1月号から「郊外住宅団地の活性化を探る」を連載中)。
◆高齢入居者の買い物・交流支援を
同公社「茶山台団地」(大阪府堺市、総戸数935戸)は、高度経済成長期の人口の都市集中に対応するかたちで、約50年前にまちびらきした泉北ニュータウンにおいて、同公社として第1号団地にあたる。入居者の高齢化や建物の老朽化、コミュニティの衰退等が進行し、空室率も高まっていることから、公社では、数年前より、入居率アップに向けたコミュニティ醸成など、地方自治体やNPO法人、地域住民と連携しながらさまざまな活動を展開している。
今回のプロジェクトも、団地内でコミュニティ支援活動を行なっているNPO法人SEIN(サイン)から公社に相談があったことがきっかけだった。「ちょうど公社としても空室活用を検討したタイミングでした。団地内には食品スーパーはないことから、NPO法人には、入居者から『買い物がしんどくなってきた』『惣菜などが近所で買えたらいい』といった相談が寄せられている状態でした。団地の空室を活用してそういった方々を支援できる施設をオープンすることにしました」(同公社総務企画部企画室経営企画課企画戦略・広報グループ主事・小原旭登氏)。
空いていた住宅団地1階の1戸をコンバージョン。高齢者の買い物支援と孤食を防ぐ取り組みとして、イートインコーナー付きの惣菜販売店「やまわけキッチン」をオープンすることとなった。
◆クラウドファンディング等活用し改装
飲食店を運営するにあたって必要最低限の改修等を行なった。公社側で施設に不要な風呂の撤去や電気容量の拡大等を行なったうえで、表面材の変更等の簡易な改修に関しては、ワークショップ形式のDIYで実施。ワークショップには、団地入居者や公社職員等181人が参加。床貼り、家具作り、ペンキ塗り等を行なった。そのほか冷蔵庫やシンク等の機材や調理器具を調達した。飲食店として営業開始するにあたって、保健所から営業許可も得ている。
テナントとして同NPO法人に貸し出しているが、同公社では同活動を支援するため、一定期間フリーレントとしている。
なお、DIYと設備導入費用には(一財)ハウジングアンドコミュニティ財団の「住まいとコミュニティづくり活動助成」の助成金(約110万円)と寄付金タイプのクラウドファンディング(約66万円)を活用することで、費用圧縮に努めた。
18年11月のオープン日には、開店待ちの列ができるほどで、約100人の来店があったという。高齢者を中心とした来店客からは「一人暮らしだからありがたい」「買物難民が解消される」「皆さんと一緒に食事できるとおいしい」などの声があった。そのほか、クラウドファンディング等を通じて同店舗のことを知った団地外在住者の来店も少なくなかったという。
当初から好調な「やまわけキッチン」だが、単純に空いたところを改修するという発想だけでは集客は難しいという。「これまでも集会所等の空いている空間を新たな施設に改修する取り組みはしてきましたが、コミュニティなどができていない団地に一方的にハコだけつくっても入居者になかなか受け入れていただけないという経験がありました。入居者との関係性が事前にできているかどうかが、集客の面でポイントになっているように思います」(同氏)。
今後は、「やまわけキッチン」を単なる惣菜店・飲食店としてだけではなく、イベント開催にも活用するなど、地域のコミュニティ拠点としても活用させていきたい考えだ。
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集合住宅において、余っている既存ストックをそのまま住宅として活用するだけでなく、場合によっては利便施設やオフィス等、異なる空間に転用することで、低下していた物件価値を高めるだけでなく、地域活性化にもつながる可能性があると分かった。特に住宅として不人気になりがちな1階部分は、共用施設や店舗としての活用であれば十分に魅力がある。それには地域ニーズの的確なヒアリング、入居者との信頼関係構築はもちろん、入居者とともにつくりあげていくことが重要になるだろう。今回は大規模団地の事例であったが、民間住宅であっても、空室を人が集う空間に転用する発想は参考になるのではないだろうか。