「ロボットとの共存」というテーマは、これまで数々の映画や漫画の世界で描かれてきた一種の夢物語だ。しかし、IT技術の革新が進む昨今、その夢物語も最早現実のものとなりつつある。人口減少、少子高齢化、働き手不足、etc…、社会課題解決の糸口をその「ロボット」に見出す声も多い。同様に、ビル管理業界においても、人口減少などによる人手不足の状態が慢性的にあるようだ。現状、こうした管理業務はほぼ人の手で行っていることをご存知だろうか。例えば、オフィスビルの警備員は一日15~20キロもの距離を歩き、施設内に何か異常がないかを確認しているという。これは大変な手間だが、そうした日々の反復業務をロボットに任せようとする動きが徐々に進みつつある。(株)三菱地所では、次世代型の施設運営管理の構築を目指し、管理事業におけるロボットの活用を推進している。
■床清掃はロボットに
同社はこれまで、AI(人口知能)を搭載した自立移動型警備ロボットや運搬ロボット、施設案内を行なうロボットなど、さまざまなロボットを自社が管理するビル内などで導入し、その省人化効果などを検討してきた。2019年1月には、AI清掃ロボット「Whiz(ウィズ)」の実証実験を、本社を置く「大手町パークビルディング」(東京都千代田区)で実施。同月21日に、同社ビル運営事業部・経営企画部DX推進室統括・渋谷 一太郎氏が、実証実験の概要、今後のロボット活用の展望などを語ってくれた。
同機は同社が出資し、ソフトバンクロボティクス(株)が開発した小型清掃ロボット。事前に同機を手押しし、清掃エリアの地図データを作成・記憶させておけば、起動時に記憶した地図データを基に清掃ルートを自動走行する仕組みだ。また、吸引力には「通常」と「パワー」モードの2つがあり、手押し中のモード切り替えも忠実に再現。また、清掃ルート上に人・障害物がいても、搭載された複数のセンサーが検知することで、回避しながら清掃を続ける。
床面清掃の大部分を同機に任せることで、ビルメンテナンス業界の業務効率化につながると考え、導入を決定したという。実証実験では、利用場所の形状、床材の違いによる清掃効率の差異なども検証。実導入に向けた知見を蓄積する狙いだ。
■現場から好評の声が
なお同機は、1時間で500平方メートルの清掃が可能。1回の充電で3時間稼働する。こうしたバッテリー性能も、同社が高く評価した点だ。実証中、デモ機で試したところ、大方カタログ通りの性能を示したという。
「人間に代わって素早く清掃を終わらせるというよりは、同機が床面を清掃している間に、清掃員には机・棚など高い所の清掃や、ゴミ出しなど、“人にしかできないこと”がやってもらう。これで、かなりの省人化効果が見込めると思っている。実証中、実際に同機を使用した清掃員からも、『これは簡単だ、楽だ』、『ここまで清掃のクオリティが高いなら充分だ』など、好評の声をいただいている」(渋谷氏)
一方、業務効率化への道のりには課題もあるという。それは、手押しして同機に清掃ルートを覚え込ませる作業、通称「ティーチング」の仕方だ。効率良く同機に清掃させるには、ルートを一筆書きのようにしなければいけないため、利用場所によってはルートを組むのに苦労するようだ。「ティーチングによって効率が大分変わってくるので、今回の実証実験ではそれも含めて検討を重ねています」(同氏)。
今回の実証結果を踏まえ、4月には、同社グループが所有、運営・管理する全国のオフィスビル、商業施設、空港などで約100台を実導入する予定。実証を行なった同ビルのほか、3月開業予定の下地島空港や、4月より同社が運営・管理する静岡空港などでの導入が決定しているという。
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導入部分では、ロボットとの「共存」と書いたが、今回発表された運用方針などを見る限り、「協力」の方が近い。管理業務のすべてを任せるのではなく、部分的にサポートしてもらう。しかし、ロボットが本来の効果を発揮するためには、人間側がロボットに“合わせる”必要もありそうだ。「Whiz」におけるティーチングは清掃員がコツを掴む必要があるだろう。業務効率化、省人化への道のりには、やはり人の努力が欠かせない。4月に実導入を迎えるというので、日常的に私たちの目に触れる機会も出てくるかもしれない。今後も、現場での反響など含め、取材を続けていきたい。(丈)
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AI清掃ロボットの実証実験/三菱地所(2019/1/22)