ポラスグループの(株)中央グリーン開発が埼玉県越谷市で進めている戸建て分譲「パレットコート北越谷フロードビレッジ」(総戸数64戸)。開発地周辺の住民が主導して整備した集会所「南荻島出津自治会館II」が竣工を迎えた。同施設は今後、地域コミュニティの中核施設として使われていく予定だ。これ以外にも、同分譲地では周辺地域も含めた広範囲での住民コミュニティを活性化するためのさまざまな試みがなされた。これまでの動きを振り返りながら、同分譲地で行なわれた地域コミュニティ活性化の動きを紹介する。
◆初の「棟下式」
同分譲地は、信用金庫の研修所跡地の再開発プロジェクト。宅地造成前の2017年4月には、旧研修所建物の「棟下式(むねおろしき)」を執り行なった。「棟下式」とは、古い建物を取り壊す前に「建物に感謝する」ために神事等を行なうイベントのことで、同社の造語だ。最近では、同社が関係しないプロジェクトでも「棟下式」と称してイベントを開催するケースが出てきており、全国的な広がりを見せている。
その第一号事例が同分譲地。もともと、研修棟に付属しているグラウンドは地域の運動会の練習場所になるなど、地域から親しまれていた経緯もある。地域住民に開放して残置物の引き取り会や壁に自由に落書きしてもらうなどといったイベントを実施したところ、予想を上回る約700人の地元住民が参加した。
◆「使われる集会所」をつくる
越谷市では、条例で50区画以上の住宅地を開発する際、集会所の整備が定められている。ところがこれは、越谷レイクタウンなどの新規開発を想定したもので、既存の住宅地での再開発を想定したものではなかった。同分譲地から徒歩数分のところには、すでに既存の自治会館が存在しており、地域のサークル活動等の場所として稼働率も高かった。
そこで同社では、「同じ自治会館をつくっても、利用されない。ならば住民と一緒に必要なものを考えよう」と、2017年10月に住民参加型ワークショップ「南荻島未来会議」を設置。3回にわたって開催し、住民がざっくばらんに意見を出し合った。最初は、「自治会の魅力の再確認、新自治会館で何がしたいか」という雑ぱくとしたイメージを言葉にする程度だったが、回を重ねるごとに具体的な自治会館の用途や運営方法にまで踏み込んで議論していった。
18年2月には、4回目の「南荻島未来会議」を開催し、同社が作成した設計図とコンセプトを披露。新たな集会所に隣接して公園を整備し、集会所と公園、そして元荒川の河川敷を合わせて“まちのリビング”として活用していく計画を示し、参加住民の賛同を得た。
◆まちづくりの「サポーター」が誕生
4回の南荻島未来会議によって、新自治会館のおおまかな方向性が定まり、次は具体的な活動内容や運営について検討する段階に移行した。自治会の呼び掛けで、自治会館の具体的な運営手法やコミュニティプログラムを検討する「南荻島まちづくりサポーター会議」が派生的に誕生。18年5月に1回目の会議が行なわれ、同社もこれまでの南荻島未来会議と同様にサポート役を務めた。
初回には、中学生を含む地域住民に加え、近隣の文教大学越谷キャンパスの学生も参加。未来会議での検討を踏まえて自治会館完成後の運営方針等の検討がスタートした。サポーター会議は、水辺(河川敷)や公園を使ったイベントが実施できるように検討していく「みずべチーム」と、自治会館でのイベントや教室などを企画していく「アトリエチーム」の2つに分かれて検討していった。
◆さまざまイベントにトライ
サポーター会議は、トライアル的にさまざまなイベントを実施。初弾は1回目の会議を行なう直前の18年5月12日。この日は、新自治会館建設予定地の目の前にある公園スペースの芝張りと、うっそうと生い茂った河川敷の雑草を使ったミステリーサークルづくりのイベントを開催した。芝張りでは、マンションや分譲地の緑化管理を手掛ける(株)東邦レオの担当者による指導の下、大人と子供合わせて約60人の住民が参加。同分譲地を購入した新住民も数組参加するなど、上々の滑り出しとなった。
7月7日には文教大学の大道芸サークルの発表やワークショップなど「七夕フェスタ」を開催し、終了後の水辺でのちょい飲み会に100人近くを集めたり、10月には草加市のカヌーサークルの協力を得てカヌー体験を開くなどさまざまなイベントを行なった。
これらのイベントは、新自治会館の本格開設後にどういったイベントを通じて住民コミュニティの活性化を図るか検討する狙いもあり、イベントと同時並行して自治会館の具体的な運営体制やルールを決めていった。
◆竣工披露イベントも住民がプロデュース
そして、19年1月12日に行なわれた新自治会館の竣工記念式典も、サポーター会議の内容を反映した。「公園や水辺を一体的に使ったイベントに」「近くの高校や大学、地域サークルにも発表してもらう」などといったアイディアは、サポーター会議で出た「このまちで新しく暮らしを始める人に地域のことを知ってもらう」という思いを詰め込んだ。
当日、挨拶した出津自治会会長の大熊久夫氏は「この2年間のことを思うと感無量です。旧研修所が解体されて64世帯が新規にできること、自治会館が増えることにどうすればいいかと頭を悩ませていた折、中央グリーン開発から未来会議の提案があった。会議を重ね、夢が実現した気分です。ここがこの地域の交流の基点になり、地域コミュニティが活発になっていくよう、使っていきたい」と話した。
新自治会館の1階部分は、週に2回開放日を設けて地域住民が自由に立ち寄れるスペースとしている。2月だけで約120人の地域住民が利用するなど、多くの人が利用している。「午前中はお子さんを連れて散歩しているママ、午後は地域のシニアの井戸端会議の場所になっているケースが多いですね」(中央グリーン開発CSV推進室コミュニティ企画係の柴 俊之氏)。
新自治会館は、3月まで同社が保有し、4月からは越谷市に帰属することになる。同社としての今後の関わり方について、柴氏はこう語る。「分譲地の管理組合が3月に発足しました。当社はそのサポートという立場で地域を盛り上げていくかたちになると思います。また、当社には『マチトモ!』という自社分譲地でのコミュニティサポート制度もあり、当社の持つさまざまなリソースを生かして住民の皆さんを支援していこうと考えています」。
◆◆◆
こうした分譲地でのコミュニティづくりの動きは、販売面でもプラスに働いている。2月末時点で64区画中55戸を発売、成約数は51戸と高い成約率を誇る。イベント時に営業担当者が購入検討者を案内することもあり、地域とのつながり、ご近所付き合いを求める検討者にとっては、非常に大きなアピールポイントになっているようだ。
近年、分譲住宅開発にタウンマネジメント、エリアマネジメントの思想を取り込み、分譲後の住民コミュニティ形成や活動支援を行なうケースが増えてきた。同社が同分譲地で実施した手法が別の分譲地に使えるとは限らないし、同じ手法が生かせるケースはほとんどないかもしれない。しかし、ここで得た知見・ノウハウをどう生かし、他の分譲地に応用していくか。開発会社の腕の見せ所となりそうだ。(晋)