注文住宅の販売チャネルとして、重要な位置を占めている総合住宅展示場(総展)。不動産の視点でみると、郊外土地や大規模土地といった活用の難しい土地の有効活用策として有力な方策だ。ただ、人口減少によって住宅市場のシュリンクが見込まれる中、テナントである住宅メーカーの撤退・出展規模縮小などの悩みを抱えている。今後、総展の運営には何が必要か、展示場運営会社の声を聞きながら探ってみたい。
◆実は増えている来場者。しかし……
(一財)住宅生産振興財団と住宅展示場協議会の調査によると、総展の来場者数は近年、実は増加傾向にある。全国の総展の7割程度を占める同協議会加盟社が運営する総展の総来場者数は、2016年度が397万7,132組、17年度が411万472組、18年度は424万5,115組だった。ただ、19年度に関しては、4~6月の3ヵ月間で113万4,409組と、前年同期に比べて3.45%減少している。
とはいえ、大手住宅メーカー各社では、総展に出展するモデルハウスを統合・集約する動きが出てきている。各社の決算資料を眺めると、積水ハウス(株)は15年1月期末の時点で全国に420ヵ所あったモデルハウスを、19年1月期末で370ヵ所まで減らした。このほかの大手メーカーも横ばい・削減の動きが目立っている。大和ハウス工業(株)はモデルハウスの数こそ全国ベースでわずかながら増やしているが来場数(入館数)は、過去10年で1万人以上、モデル1棟当たりに換算しても年間約100組減っている。
◆現場は来場者増を「実感できない」
総展の運営等を手掛ける(株)エイトノットアンドカンパニー(東京都港区)の取締役社長・室田直也氏は、こうした動向について「かつては総展に来場したユーザーは多数のモデルハウスを見学して建築会社を決めていましたが、いまはインターネットで下調べをしてから来場し、少数のモデルハウスを見て確認します。つまり、総展はユーザーにとって建築会社との『出会い』の場ではなく、自分で調べた情報を『確認』する場所に役割が変わったのです。そのためデータ上の数字ほど、“モデルハウスへの入館者数”が伸びていないというのが、来場者増を実感できていない要因ではないでしょうか」と語る。
また近年、こうした傾向を受け、住宅メーカーが1つの展示場に2棟以上のモデルハウスを出展している場合に整理統合する傾向が強いという。室田氏は「損益分岐点は地域・個別の展示場によってさまざまですが、なんらかの手立てを考えなければ空き区画が増え、経営が悪化するだけです」と危機感をあらわにする。
以下、集客と出展の側面から、土地活用としての「総合住宅展示場」について考察する。
◆現場の焦りが来場者を遠ざける
まず、集客について室田氏はこう語る。「住宅展示場に来場するお客さまはすぐに家を建てようと考えている人ばかりではありません。そうした人に営業担当者の『受注したい』という焦りが悪いほうに伝わってしまうと、再び来場はしてくれません。だから来場者・入館者は減る。さらに営業担当者は受注を取らなければならないので、焦ってより一層強く営業してしまう。悪循環です」(室田氏)。
◆「コンシェルジュ」がユーザーを案内
そこで同社では、20年をめどに初回来場のユーザーに、出展各社のモデルハウスを案内しながら、特徴や予算感等について説明する「コンシェルジュ」を置いた総合住宅展示場をオープンする計画。第三者目線で客観的にその住宅会社の特徴を説明してくれるコンシェルジュがいれば、「無理な営業をされるのでは」というユーザーの不安を解消でき、コンシェルジュから住宅会社に紹介する段階では確度の高い顧客となっているという仕組みだ。
その試行の狙いもあり、同社は8月10日、(株)ギガプライズとナーブ(株)との共同で商業施設「イオンモール幕張新都心」(千葉市美浜区)に「VR住宅展示場」を開設した。文字通り、出展会社のモデルハウスをVR画像で見せる住宅展示場だ。
同展示場には、第三者的に各社のモデルハウスについて説明し、住宅相談も受け付ける専任の「コンシェルジュ」を配置する。来場者に気軽に各社のモデルハウスを仮想見学してもらい、気に入って本格検討に移りたいという声があれば、近隣の総展に送客するビジネスを想定している。「VRで画像をみて確認してもらうだけでなく、希望の住宅のイメージをつくってもらい、確度の高いお客さまとして送客していきたい」(室田氏)。
◆大手志向から地域密着志向へ
さて、総展という土地活用手法はこれまで、大手住宅メーカーの出展を中心に展開されてきたビジネスモデルだった。ただ、前述したようにここにきてモデルハウスの統合・集約の動きが目立ってきており、出展ターゲットを広げる必要もある。
同社が運営する「川越ホームスミスショウ」(埼玉県川越市)は、そうした危機感などから地元の工務店やビルダーをテナントとして誘致。地域密着の工務店は職人気質が高じて営業が苦手な会社が少なくなく、顧客が建築実例を見ようにもモデルハウスを持っていないケースも多い。そのため、実例を提示できる総展のような営業拠点が求められており、今後こうした展示場は増えてくると予測できる。
しかし、そうした地元企業も人材不足。モデルハウスにスタッフを常駐させるわけにもいかず、それが工務店の総展出展を阻害してきた要因でもある。
そこで、前述した「コンシェルジュ」による初回案内が効いてくる。極端に言えば、モデルハウスへのスタッフ常駐が不要で、顧客が建築会社を絞り込んだ段階でコンシェルジュからの連絡に応じてスタッフを派遣すればよい。「ある程度『温まった』状態で顧客を建築会社に送客することで、営業支援にもなります。今後、住宅展示場には集客だけでなく、テナントの営業支援という役割も求められるでしょう」(室田氏)。
◆地域に開いた住宅展示場に
「川越ホームスミスショウ」は、敷地内にファーストフード店を誘致。日常使いする施設を総展内に組み入れることで、最も有力な顧客層である地域住民が持つ、住宅メーカーや総展に対する心理的な障壁を取り去ろうという試みだ。
これ以外にも、同展示場ではこの夏、自治会の盆踊り大会を展示場内で行なうなど、「地域に開けた展示場」として運営している。「実は去年も同じように計画したのですが、雨天中止。今年が初開催でした。自治会に盆踊り会場として利用してもらうよう話をもちかけて実現しました。その地域での住宅建築の予備軍である住民の認知を広げることは非常に有効です」(室田氏)。
このほか、同社では総展のモデルハウスを使ったアート展やクラシックコンサートといったイベントを開き、住宅展示場への心理的な障壁を払拭してきた実績がある。厳しい環境が続く総展の運営だが、今後も、住宅展示場の役割の変化をとらえさまざまな角度から挑戦していく。
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「総合住宅展示場が転機を迎えている」とは、10年以上前から言われていること。しかし実際、今でも「ヒーローショーで集客→モデルハウスに誘引して名簿に記名」という営業方式がまかり通っているのも事実。それがいよいよモデルハウスの入館者数が減少し、しかも人口減少による市況変化という要素も加わり、変化せざるを得ない状況に迫られているとみる。
そうした中で、今回紹介したような「地域ビルダーの誘致」「出展企業の営業支援」「地域住民にも開く運営」といった、これまでの住宅展示場には少なかった『地域』にフォーカスした取り組みは、運営面にプラスに働くか。注目したい。(晋)