記者の目 / 開発・分譲

2019/8/30

IoT・AIを活用した「未来の団地」

 全国に約1,500の団地を有する(独)都市再生機構(UR都市機構)が、2030年の未来を見据えた「Open Smart UR」構想を打ち立てた。IoT・AIを活用し、「スマートな住環境」を目指すというものだ。その実現に向け、このほど「ヌーヴェル赤羽台」(東京都北区)団地内にスタートアップモデル住戸を設置、報道陣に公開した。

◆昭和30年代後半と2030年の住まいを比較

 同団地は、JR「赤羽」駅徒歩10分に位置。1962年(昭和37年)に入居が始まった、55棟・3,373戸の大規模団地で、区画面積は10.2ha(創建時)。2000年から建替事業に着手しており、現在はほとんどが「ヌーヴェル赤羽台」として建て替えられている。

IoT・AIを活用したモデル住戸。3Kを1LDKに間取り変更している
1962年頃の姿を再現した住戸

 モデル住戸は、44号棟・1階、三角形平面の階段室の周囲に各階3住戸が放射状に配置された「スターハウス」内にある。比較検討するため、103号室を昭和30年代後半の建設当初を再現した住戸に、102号室をスタートアップモデル住戸としている。

 まずは103号室。この住戸は、1964年の東京オリンピックを目前に控えた62年頃の姿を再現した、畳敷きで押し入れのある3Kの和室。「KJ(1960年にスタートした公共住宅部品規格制度)部品」のステンレス流し台や台所換気ファン、スチールサッシなどを設置。浴室は内釜式木製の浴槽と、レトロ感たっぷりだ。一方で、当時“三種の神器”といわれていた白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫といった家庭電化製品や、電気炊飯器、蛍光灯などを備えている。

当時使用されていた内釜式木製浴槽
時代を感じさせるステンレス流し台や電気炊飯器が置かれたキッチン

◆「住む=サービスを受ける」という「HaaS」コンセプト

 一方、102号室ではIoT・AIを使ってどんな実証実験を行なっているのか。

 同機構は「Open Smart UR」の実現に向け、「INIAD cHUB(東洋大学情報連携学部 学術実業連携機構)」(以下、「INIAD」)と連携し、2018年1月、「Open Smart UR研究会」を立ち上げた。同研究会では、「HaaS」(Housing as a Service)の考えを取り入れ、少し先の未来における住まい方のビジョンを検討している。
 「HaaS」とは、クラウドコンピューティングの世界で使われる「IaaS」や「SaaS」に似せて説明した言葉。多くの分野で「サービス」に還元されることを示すのに「~aaS」と使われるようになっているが、「HaaS」も同様。URクラウドから「サービス」を提供し、物理的住戸を超えた「住む=サービスを受ける」住まいにしていこうというものだ。

さまざまなサービスメニューがテレビ大のタッチパネル型ホームモニターに集約されている
ほぼ無風・無音で室内を快適な温度に保つ放射連暖房パネル仕様の天井

 「HaaS」のコンセプトを具現化した102号室内には、見守りカメラや環境センサー、サーモイメージセンサー、マイク、深度カメラなど合計42個のセンサーを設置。各種センサーからのデータをもとに、「人が倒れた」といった異常事態などをAIが判断する。トラブルの早期発見や不審者の通報、防犯対策にもつなげる。
 また、買い物代行やクリーニング、宅配便サービスや地域のレストラン情報、天気・交通の運行状況などのデータを集約した、テレビ大のタッチパネル型ホームモニターを設置。IoTスイッチ一つで、すべてのサービスが受けられる仕組みとなっている。

 「IoT住宅の実現に必要なのは、メーカーの垣根を越えてさまざまな機器がAPIでつながること。サービスを提供してくれる企業、例えばAmazonとGoogleがURのAPIと仲間になれば、“Alexa”や“Google Home”いずれのAIスピーカーでも利用できます。より多くのサービスとの連携が、IoT住宅実現への近道です」と、「Open Smart UR研究会」会長の坂村 健氏は話す。

冷蔵庫に足りないものがひと目で分かり、適切な時間に受け取れるよう自動発注させることも可能
ヒートショックを防いだり、快適な温度の湯を溜めるといったメッセージも出せる

 高齢者や障害者など多様な住まい手の要望に合わせ、受けたいサービスをカスタマイズすることも可能。例えば、ヒートショックの危険がある場合は、風呂場に「ヒートショックの可能性があるから入ってはいけない!」というメッセージを出すようにしたり、健康管理アドバイスを参考に食事メニューを決めると冷蔵庫に足りないものが表示され、さらに適切な時間に受け取れるよう自動発注させることもできる。

 「2020年から、小学生がプログラミングを学ぶ」(同氏)そうで、30年には普通の若者たちが住宅環境のプログラミングを当たり前に行なう時代になっているかもしれない。

◆通信技術の高度化により「未来の団地」が近くなる

 実は坂村氏、1989年に、天井全体が放射冷暖房パネル仕様の空調設備を備え、血圧を測ると病院にデータが送られる…といった「超未来住宅」を完成させていたそう。しかし、当時はバブル崩壊前でイケイケどんどんの時代。健康に気を使う人も少なかったそうで、「健康診断をする住宅なんて嫌だ」などと言われたこともあるとか。何より、同住宅では天井のパネルを設置するだけで、1億5,000万円ものコストがかかったというから驚きだ。

 「通信技術が高度化したおかげで、今回のモデル住戸に設置している放射冷暖房パネルのコストは十数万円程度しかかかっていません。モデル住戸は完成形ではなく、IoT・AIのさまざまな可能性を試す場です。技術的な検証を行ない、URとして目指すべき環境づくりの検討を進めていきます」(同氏)。

三角形の階段室の周囲に各階3つの住戸が放射状に配置された「スターハウス」

 同機構は、各種外部サービスとの連携を強化するべく、9月末までに民間企業にモデル住戸を公開、10月より一般に公開する。再現住戸とモデル住戸を設置した、団地内の「スターハウス」は建て替えることなくそのまま残し、技術検証や室内環境のカスタマイズを継続して行なっていく考えだ。ちなみに、この「スターハウス」は、登録有形文化財(建造物)に登録される予定となっている。

◆◆◆

 近い将来、ネットで購入した商品の受け取りを操作すると宅配センターからドローンが運んできてくれたり、電動のAIカーが行き先を告げると目的地まで連れて行ってくれたり、朝目覚める時間に合わせてIoTセンサーが最適な温度・湿度に整えてくれたり…といったことが当たり前になるのだろうか。
 IoT・AIの技術は日々進歩する。2030年、「未来の団地」がどう変わっているのか、少し先の話になるが楽しみにしたい。(I)

【関連ニュース】
赤羽の団地でIoT・AI活用の住戸/UR」(2019/6/12)

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