たくさんの本に囲まれ、コーヒーを飲みながらゆっくりとした時間を過ごせる「ブックカフェ」がいま注目されている。インターネット通販で本を購入する人が増え、書店の数が年々減少しているという背景もあり、ブックカフェの数が増加。「交流の場」「コミュニティが生まれる場」としても認知されているという。今回は、この「ブックカフェ」を拠点に地域のコミュニティづくりに取り組む不動産会社を紹介する。
◆「地域に恩返しがしたい」との思いから…
東京・西新井で、売買・賃貸仲介、管理業を営む北澤商事(株)(東京都足立区)。創業者で代表取締役会長の北澤艶子氏は、宅地建物取引業の免許がまだ必要のなかった時代に、机と電話1本から不動産会社を興した。地域での信用をコツコツと積み上げ、今年で創業65年。その記念として、昨年11月、「ブックカフェ ハレキタザワ」を地域に開放した。
「これまで仕事を続けてこられたのは地域の方々のおかげ。少しでも恩返しができればと思いオープンしました。気軽に立ち寄って、憩いのひと時を過ごしていただきたい」(同氏)。
同氏は、通常のカフェや書店とは違う空間が楽しめる「ブックカフェ」という業態に着目。もともと同社で経営していたレストランをそのまま活用した。
同ブックカフェは、同社から車で約10分の東武鉄道伊勢崎線「竹ノ塚」駅から徒歩15分に立地。敷地は約100坪、カフェからテラスと庭へ自由に行き来することが可能で、入場料300円を支払えば10~17時までの間、誰でも利用することができる。給茶機のコーヒー、緑茶、麦茶、ウーロン茶は飲み放題。プラス300円でドリップコーヒーも楽しめる。
蔵書は約2,000冊。ベストセラー小説や哲学書、建築・健康にまつわる本などジャンルを問わず、これまで北澤氏が読み集めてきたものだ。
◆高齢者の語らいの場、テレワークにも
利用法はさまざま。読書を楽しむ場としてはもちろん、近所に住む高齢者たちの語らいの場として、また、テレワークや学生の勉強の場などに利用されている。ブックカフェめぐりをしているという若い男性が来店したことも。3時間1,000円で貸し切ることができ、結婚前の両家顔合わせやアレンジメントフラワー教室、ママさんたちの新年会なども行なわれたという。
同ブックカフェを運営する北澤氏の次女・里弥さん主催の「読書クラブ」も、今年1月、第1回目が開催された。課題本を1冊決め、その本を読んだ感想を参加者同士が述べ合ったり、面白かった本の情報交換などを行なうもので、当日は近隣住民や里弥さんの知人ら15名ほどが参加。参加者からは、「そういう見方もあったのか」「自分とは違う意見で面白い」などの感想が寄せられ、好評だったとか。読書クラブは定期的に行なっていく。
また、プロのウクレレ奏者として活動していた北澤氏の夫・正夫氏によるウクレレ教室や、シャンソン・ジャズのコンサートなども開催する予定だ。
利用者の口コミやSNSなどにより、「ここに来たら何か楽しいことがある」と訪れる人が少しずつ増えているという。
「引っ越してきたばかりのご高齢の方が来店された際、『たまたま一緒になった利用者の方が地域の情報をいろいろと教えてくれたので安心できた』と言ってくださったことがあります。地域で安全に安心して暮らしていくためには、こうした情報や人との関わりが大切です。ブックカフェを拠点に住民同士のつながりが深まっていくと嬉しいですね」(同氏)。
◆地域住民をつなげるコミュニティの拠点を目指す
こんな話もある。
コロナ禍のサービスの一環として、同ブックカフェの近所の高齢者宅を移動スーパーが訪れている。その現場を目にした正夫氏は、「近所の方に声をかけるから、ブックカフェの駐車場で販売したらどうか」と提案。それを機に、週に2回、駐車場での販売会を実施することになった。外出の機会が減少していた高齢者が集い、ちょっとした散歩や会話を楽しむ場になっているという。
また、同ブックカフェの近くにある母子生活支援センターでは、週に1度マルシェを開催しており、毎回多くの人が集まっている。そこで、同ブックカフェでもフリーマーケットを開催し、さらなるにぎわいを創出して人を呼び込み、まちの活性化を目指したい考えだ。
「コロナ禍で“地域の価値”を見直す人が増えているように思います。『ここに住みたい』『ここに来たい』と思えるまちづくりをすることも、不動産業の仕事の一つ。ブックカフェの取り組みを通じて、魅力あるまちづくりに貢献できれば」(同氏)。
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収束の兆しが見えないコロナ禍において、近くにあるコミュニティの場が心の拠り所になることもある。こうした不動産会社の取り組みをきっかけに、多くのまちで地域コミュニティが醸成され、活気ある魅力的なまちになることを期待したい。(I)