海外トピックス

2010/9/7

vol.162 フラー博士のサマーハウス(その2)

アレクサンドラ(右)の運転で
アレクサンドラ(右)の運転で
、リットル・スプロース・ヘッド島(前方)めざして進む(メイン州 以下同)
、リットル・スプロース・ヘッド島(前方)めざして進む(メイン州 以下同)
西部開拓史を思い起させる丸木小屋。内部は必要最小限なものだけ揃い、簡素だが清潔で居心地はよさそうだ
西部開拓史を思い起させる丸木小屋。内部は必要最小限なものだけ揃い、簡素だが清潔で居心地はよさそうだ
中はけっこう広く、何人か暮せるテント。秋にはたたんで、冬の間はしまっておき、来年春にまた組み立てるそうだ
中はけっこう広く、何人か暮せるテント。秋にはたたんで、冬の間はしまっておき、来年春にまた組み立てるそうだ
中心となる納屋風の建物。内部は天井は吹き抜けだが、壁にそって階上に寝室がしつらえてある。トイレやシャワーは建物の外
中心となる納屋風の建物。内部は天井は吹き抜けだが、壁にそって階上に寝室がしつらえてある。トイレやシャワーは建物の外
滞在する人々の野菜はここで栽培し、充分まかなえるそうだ。少年は気前よくキュウリを1本くれた
滞在する人々の野菜はここで栽培し、充分まかなえるそうだ。少年は気前よくキュウリを1本くれた

フラー博士の孫・アレクサンドラに誘われ、隣の孤島へ…

バックミンスター・フラー博士は「現代のレオナルド・ダヴィンチ」と言われ、ジオデシックドームを発明した工学者で、建築家、詩人、哲学者でもある。前回はフラー博士のサマーハウスでのレポートだったが、特にエコロジーについての博士の思索は先駆者として素晴らしいと思う。 大西洋に浮かぶベアーアイランドという島で博士の思索の一端でも理解しようとエコロジカルな暮らし(?!?)をしていたある日、フラー博士の孫にあたるアレクサンドラがモーターボートでこの孤島にやってきて、「隣の島に今建築中のいくつかの建物を見に行かない?」と誘ってくれた。有志数人、波が静かな海上なら5分足らずというリットル・スプロース・ヘッド島めざして、モーターボートに乗り込み、いざ、しゅっぱ~つ!

アレクサンドラとサム夫妻の島“グリーン化”計画

リットル・スプロース・ヘッド島の桟橋は真新しかった。モダンなデザインで、取りつけられた椅子の下はもの入れになっており、ロープや簡単な工具が収納されている。アレクサンドラ夫妻ともう一組のフラー一族が所有するこの島は開発を始めて間もない。ほぼ完成した大きな建物を中心に、建築中のいくつかのキャビンが点在している。いずれも簡素なつくりで、西部開拓時代風の掘建て小屋やインディアンのテントまであって “遊び心” がうかがわれる。 アレクサンドラのご主人のサムは大工さんと一緒になって木材を切ったりはめ込んだりと、建設作業に忙しく取り組んでいる最中だったが、手を休めてあちこち島のなかを案内し説明してくれた。サムとアレクサンドラは共にこの島を “グリーン” にするつもり。つまり、限りある資源を大切に有効に使い、できる限り再利用する。そしてこの美しい環境を汚さないよう、廃棄物などは徹底して制限する予定と言う。

人糞まで再利用し、エネルギー源に

そのため、ソーラーシステムを採用し、電力を貯めておいて電灯やコンピューターに使用する。雨水も貯めてシャワーや皿洗い、洗濯に使う。料理した後の生ゴミは堆肥にしてこの島で野菜を作っている。メイン州沿岸から1時間離れた孤島なので、全ての料理素材はメイン本州から船で運ばねばならず、船の燃料費やガソリン排出物が懸念されるためもあろうから生ゴミ堆肥作りは納得。 しかし、何と人糞まで堆肥に使う予定というのには正直びっくりしてしまった。建物から離れてトイレ小屋があり、そこから人糞を汲取って集めて熱で腐らせて使うのだそうで、アレクサンドラが指さした場所を見ると地面がやや盛り上がっており、下は人糞だそうで、熱伝導率のためか、何枚ものダンボールがかぶせてあった。 人糞使用についていくつか研究書が出版されているというが、そこまで徹底して再利用に取り組む人は少ないのでは?

将来は、エコ関連の会議や講習開催地に

メイン州の入江や岬、そしてこの辺りの島々は夏の避暑地として有名で、全米から多くの人々がやってくる。アレクサンドラは中心となる建物を “アートセンター”、あるいは “コミュニティセンター” として、夏の間に集中して特にエコロジーに興味がある人々を集め、環境保護コミュニティのモデルとしてエコ関係の会議や講習などを開催したいと考えている。 ここは冬は非常に寒く海も荒れて住むには適さないそうで、建物は雪や氷への対策はしておらず、放置する冬の期間、建物の傷みは激しいだろう。 ベアーアイランド島共々、修理費や維持費は大変な額だろうと思うのだが、将来一般に貸し出すことで、これらの費用捻出や税金対策なども考えに入れての大プランなのかもしれない。

確実に受け継がれている、フラー博士の遺伝子

シャワーは建物の横に備え付けられてはいるが、雨水を貯めて使うので、熱湯ではない上、豊富な水量とは言い難い。栓をひねると湯も水も溢れるほど出てくる普段の暮らしを思うと不便この上ない。「不便を感じない?」と聞いたら、「ジャスト ビューティフル!!!」。続けてアレクサンドラは「我々(人類)は危険な方向にすごいスピードで進んでいるのではないかしら? 多少方向を修正する必要があると思って…」と熱っぽく語る。 確かに我々が考えるべきことはたくさんあるが、つい日々の暮しに流されてしまい、考えは形をなさないのが現実だ。アレクサンドラは彼女の考えをともかく実行に移している。その活力には脱帽。言うだけでなく、行なうのは誰にとっても実際は難しいことだが、アレクサンドラは誠実に困難を乗り越えようとしており、フラー博士の遺伝子は正しく博士の子孫に受け継がれているのだと感じたのだった。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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