海外トピックス

2010/9/22

vol.163 フラー博士のサマーハウス(その3)

左側が井戸。マーシィが水を汲んでいる。右後方が食堂(メイン州ベアーアイランド島。以下同)
左側が井戸。マーシィが水を汲んでいる。右後方が食堂(メイン州ベアーアイランド島。以下同)
ゆであがったロブスターを運ぶスザンナ
ゆであがったロブスターを運ぶスザンナ
巨大なロブスターを前にたじたじとなる。食器類はフラー博士のおばあさんの時代のものでイギリス製だ
巨大なロブスターを前にたじたじとなる。食器類はフラー博士のおばあさんの時代のものでイギリス製だ
ウニや蟹、ムール貝、蛤などたくさん穫れる。しかし水が冷たいので長い時間はもぐれないが…
ウニや蟹、ムール貝、蛤などたくさん穫れる。しかし水が冷たいので長い時間はもぐれないが…
ハンモックもいくつか吊ってあって海風を浴びて昼寝は最高。ワイン片手に本を読んだり談笑、議論する仲間達
ハンモックもいくつか吊ってあって海風を浴びて昼寝は最高。ワイン片手に本を読んだり談笑、議論する仲間達
流木を集めてたき火をする。枝にマシュマロを刺して火にあぶり、こげてきた頃アツアツを食べる
流木を集めてたき火をする。枝にマシュマロを刺して火にあぶり、こげてきた頃アツアツを食べる

テレビもゲームもない暮らしでも、退屈しない子供たち

前回は工学者で、建築家、詩人、哲学者でもあるフラー博士の遺伝子が受け継がれているに違いない孫のアレクサンドラ達による“孤島グリーン化計画” を紹介した。彼等は所有する孤島を開発して、将来エコ関連の会議や講習に役立てようと努力しており、リサイクルをはじめ可能な限り環境を破壊しない工夫を重ねている。 さて、TVもコンピューターゲームもないベアーアイランド島での暮らしだが、ジュニア達(我々世代の子供達)は退屈しない。高校生のルーシーは水泳部員なので、イルカのようにぐんぐん沖へ泳ぎ進み隣の島まで泳いできたと母親のマーシィから聞いてびっくり!マリオ、アイザック、ウェスの若者3人組はカヌーで沖に出てシュノーケルで海中探検。写真家のマイケルは水中撮影に熱中…。 ここは東、西、北はカナダに接し、合衆国では北の果てのニューイングランド地方。冬は氷点下20度にもなる寒さだから夏でも水は冷たく、泳いだ後は砂浜に横たわり太陽をいっぱいに浴びて身体を暖める。

海岸で採れた魚貝で、リッチなディナー

海岸はウニや蛤、カニ、ムール貝の宝庫。ウニをバケツ一杯とった若者達が頑丈な手袋で殻を割り中味を集める。リズがベーグルを薄く切ってオーブンで焼き、その上にウニを塗ってオードブルに…。ワインの栓が抜かれ、三々五々仲間が食堂に集まってくる。 今夜のメニューは巨大なロブスターだ。メイン州のロブスターは全米で有名だが、天然でなく養殖されている。管理人に頼みロブスターを人数分購入。1つ500円位。水を張った容器の中でごそごそ動いているロブスターは恐ろしく、特に釜茹での際は逃げ出す。皿からはみ出る真っ赤なロブスターにはレモンとバター、生クリームとガーリック入りのソースを。ボストン育ちのマイケルがロブスターの正式な食べ方――両手でかぶりつく――、を皆に伝授して大笑い。

浜辺で焚き火をし、バースデーパーティ

夕食後、ケンの誕生日を海岸で祝う。若者達がすでに流木をたくさん集めて焚き火の用意をしたので、浜辺にはすでにオレンジ色の炎があがっていて夕闇に鮮やか。ジュディがアプリコットケーキを焼いて海岸に持ってゆく。それぞれ皿やワインなど分担して海岸へ。「ハッピィバースディ」の歌を合唱してケーキをいただく。若者達は枝に刺したマシュマロを準備し早速火の上にかざして焼き始める。マシュマロはアメリカではキャンプで必ず食べる定番。アツアツのマシュマロをやけどしないよう気をつけて口に入れる。 闇が深まるにつれて火も燃え上がって来ているし、満天の星の下、打ち寄せる波の音に負けずおしゃべりで賑やかだ。後片付けは若者達の役目。我々は退散して家のポーチでしばし話の続きに花を咲かせる。

テニスコートや海岸の小道に古き良き時代を偲ぶ

食事で集う他はそれぞれ好きな場所で好きなことをして楽しむ。もともとサマーハウスだからゆっくりと寛ぎ楽しめるような設備もある。 例えばテニスコート。今時珍しい本物のクレーコートだ(運動場にあるような土のコートではなく、本物のクレー!)。物置にはローラーやブラシ、ラインを引く石灰まで用意してあり、白服を着て木のラケットでプレイした古きよき時代の人々を思う。 海岸が見晴らせるゲーム小屋にはビリヤード台とピンポン台、それに付属した道具類が置いてある。プレィリィを横切ると林の中にトレイル(小道)が海岸に沿って通っている。古い大きな木が落雷のためか倒れているのをいくつか見たが、自然の猛威は凄まじいに違いない。管理人が常にトレイルの手入れをしていて危険な箇所や崖は補修した跡がある。だから自然のまま、とは言っても、充分に手をかけた自然が保たれている。

100年前と同じゆったりとした暮らし…、なんという贅沢!

皿洗い機に放り込んでスイッチを押せば終了、という暮しに慣れた仲間達にとって、毎回20人分の汚れた皿の処理は戸惑ったに違いない。雨水を貯めた桶からポンプで水を汲み出しキッチンへ運び、大きなやかんで湯を沸かすことから始めるのだ・・・。 ここでは100年前フラー博士のおばあさんが島を購入した頃と同じような時が流れていく。何とゆったりとして素朴な過ごし方だろうか?一日中戸外で過ごし、霧が深くなれば書斎で薪を暖炉にくべて本を読む。海岸でムール貝や蛤、カニをとり、畑の野菜と共に食卓にのせる。 紙くずは焼き、生ゴミは畑へ、燃えないゴミは本土へ持っていく。びんは崖から岩にむけて投げ落とす。危険なようだが、誰もいないこの海岸で長い間に砕けて小さな石になるそうだ。電気も水道も水洗トイレさえない島の暮らしが不安で、最初にアレクサンドラに様子を聞いた時「とても贅沢よ!ジャスト ビューティフル!!!!!」 何を“贅沢”と考えるかは個人の価値観によるにしても、ベアーアイランド島でのゆったりした暮らしは本当に贅沢だった。耳にアレクサンドラの朗らかな声がいまだにこだましている。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com


明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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