市長が自転車専用レーンの増設を発表
鉄人レースに参加したエマニュエル・シカゴ新市長。自転車に乗り易いシカゴ市に改革しようと精力的に活動を開始。全米ナンバーワンの自転車優先都市へと…、つい先日、シカゴ市内に自転車専用レーンを増加することをTVニュースで力強く訴え、注目を浴びた。 自転車専用レーンはディリー前市長時代からすでに着手していたが、多くの障害があって一般化していなかった。現在、ガソリン価格の高騰や排出ガス問題など社会全体の変化で自転車利用の機は熟したようだ。プリウスなどハイブリッドカーは増えてはいるが高価だし、電気自動車はまだまだ一般的でない。電車路線や地下鉄を通す議論も行なわれてはいるが、なにしろ広いアメリカ大陸のこと、膨大な費用がかかり、着手するにしても遥か先になろう。自動車道に隣接して187kmの自転車道を設置
現実的に車は増加の一途をたどる。団塊世代以上のシニア達にとって自動車は決して手放したくない「自由」の象徴。歩行にウォーカーを使う人でも車を運転するし、介添人がいれば車椅子でも車の運転は可能と聞く。だから行動範囲が広く、暮らしをより楽しめる。しかし、経済的、健康的、地球保護的な理由からか、若者達は通勤、通学に自転車を使い始めた。 vol. 205で述べたように、オランダ・アムステルダム市の行政自体、何十年も前から自動車よりはむしろ自転車利用を奨励し、そのための道路を整備しているので、それを参考にしたのか、シカゴ市では合計187kmの自転車道が自動車道に隣接して設置された。いくつかの電車の駅には自転車専用の駐輪場を設け、ラッシュアワー以外の時間帯には自転車を電車に持ち込むことも可能に。自転車からバスに乗る人のために、バスの前部に自転車を乗せるラックも設置した。自転車利用を市が大々的に奨励しているのは明らかである(www.cityofchicago.org)。若者、家族連れと、サイクリング人口も増大
市の整備が行き届いたせいか、湖岸ぞいの道路や森林公園を自転車で楽しむ人々も増えた。公園内(アメリカの公園は武道館の何倍もある広さ)は車両禁止のため、自動車は駐車場に停める。そして、車の屋根や後部ラックから、運んで来た自転車を下ろすわけだ。 自転車専用の道路は広く長い。家族そろってのサイクリング姿は実にほほえましい。歩道と自転車道を分けている公園や森林も多く、歩行者と自転車の衝突事故は無い。 週末の早朝には、遠出をするのだろうか、色とりどりのサイクリング用の服装をしたグループを見かけるようになった。ラックに自転車を数台乗せて郊外の森や田舎にドライブに出かける人々も多い。真っ赤に染まったかえでや黄色いハニーロカストを眺めながら、のんびり自転車でリスや鹿を横目で眺めながらのサイクリングは気持ちがのびやかになるし、何よりもお金をかけずに楽しめるアメリカならではの素朴な過ごし方だろう。自転車、自動車、仲良く道路を共有する道は?
レーン設置は素晴らしいアイディアではあるが、大きな障害は2つ考えられる。第一は自動車とどう折り合いをつけるか? 現在、分割された自転車専用レーンと自転車及び自動車共有レーンの2種類がある。道路には車の縦列駐車レーンもあり、車も自転車も共に走行に神経を使うし、事故も決して少なくない。これまで2車線だった道路を自動車用に1車線、自転車用に1車線と分割するので、今後、車の渋滞を招くのは予想される。自動車のドライバーから不満の声が聞こえるようだが、「早いのはいいことだ!」と物事すべてスピード優先でこれまで突っ走って来たアメリカ人にとり、「ゆっくりいこうぜ!」とスローダウンする考え方に方向転換変する時が来たのかもしれない。 第2は、今回調べてみて自転車用の規則を初めて知った次第だが、車を運転していると、一時停止で止まる自転車はまれだし、2台並んで走る自転車や、夜点灯せずに走る自転車も見かける。シカゴ市ではウェブサイトに自転車用の規則を細かく掲載しているが、自転車利用者だけでなく、車のドライバーにももっと自転車、自動車共々規則を知らせる必要があろう。オランダのように小学校の頃から両親や学校ぐるみで子供達へ自転車の走り方を教えるように、自転車に乗る側も規則を学ぶべきだろう。車のドライバーも自転車バイカーと敵対せず、同じ地球人同士仲良く道路を共有したいものだ。
Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
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コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。
89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。
Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。
アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。
シカゴ市在住。