感謝祭(Thanks Giving) やクリスマス などの祭日は、全米に散らばっている家族や親しい友人達が一堂に会して食事を共にするよい機会だ。そんな時にしばしばあわてるのだが、アメリカの家族関係は複雑でつながりがよくわからない。離婚や再婚が多いし、それにつれて子供達も新しい兄弟姉妹が増えたり減ったり…。
夫婦に加えシングルマザーやゲイカップルが養子をもらって親子になる場合も。中国から女の子を養女にした友人達も多いが、顔が白人と東洋人で似ていないにも関わらず親子である。
だから、というわけではなかろうが、アメリカ人は不測の事態に備えて法律的な処置を怠らない。自分の身は自分で守る、という自覚が強いのか。そのためには当然ファイナンシャル・プランナー(FP)と弁護士が必要となってくる。
筆者は専門家ではないので法律やファイナンスに関して間違いがあったらお許し願いたいが、聞きかじりと素人が遭遇した体験を元に以下述べたいと思う。
リタイア時期にはFPに相談
FPは財政的な面からアドバイスをしてくれる専門家。
仕事からリタイアする時期は、自分の財産(または借金)がいまどれくらいあり、住まいのサイズダウンが必要かどうか、将来何をどう運用したらよいかなど把握する良い機会でもあろう。FPには自分の資産状況を洗いざらい打ち明けるので、信頼できる人を選ばなければならない。銀行でもFPがいて相談にのるが、独立したFPの方が公平な立場から財政面の相談にのってくれるような気がする(http://www.lincolninvestment.com) 。
まずは、信頼する友人に聞いて探すか、紹介を受けるのが良い方法であろう。
遺言状専門の弁護士を選定
弁護士は不動産や移民問題、離婚、自動車事故など専門ジャンルが細分化されているので、知人友人に遺言状作成専門の弁護士を知らないか聞いてみる。また、FPには職業上弁護士の知り合いがいるので、紹介してもらうと話が早い。3人位ピックアップして、彼等にこちらの状況をざっと話して生前遺言状作成の見積もりを取り、一人の弁護士に絞り込む。
希望する資産配分先を弁護士に
弁護士が決まったら顔合わせだ。
所有している資産(家、銀行預金、株や証券、その他の不動産、車等)を弁護士に説明し、それらを誰にどう配分したいか、こちらの希望を弁護士に告げる。何度かの打ち合わせのあと、弁護士が正式文書にまとめ、依頼者が確認し、アメリカでは印鑑は使わないので沢山のページに沢山の署名をする。その後ずしりと重い一冊にまとめたノート(バインダー)が手渡されるのが法的に正式な生前遺言状である。
信託を利用すれば相続がスムースに
なお、トラスト(信託)という形態がある。トラストを宝石箱と例えてみよう(勿論宝石箱が実際にあるわけではない)。依頼者が資産を「宝石箱」に入れ、その「宝石箱」を任命された管財人が管理するという形である。遺言状に明細が記述されるが、相続人の一人(例えば息子か娘)が管財人と相続人を兼ねる場合も少なくない。
通常、故人の遺産分配などの手続きの際は裁判所へ検認手続き(Provade)に何度も足を運び、時間も手間もお金もかかる。アメリカには戸籍がないので、家族親族関係を確認するためである。1年以上かかることも多く、その間遺産分配は保留されるし弁護士が必要な時さえある。
この点、トラストを作成しておくと検認手続きが避けられ、トラストに指定した通りに管財人が財産をスムースに分配出来る(https://en.wikipedia.org/wiki/Trustee)。
突然の事故死・病死に備え生前遺言状を
年をとると、主治医から「正式な遺言状は書いてあるかな?」と聞かれびっくり仰天することがある。
映画等に出てくるような、遺言状が劇的な展開となるほどの大金持ちではなし、第一余計なお世話だ、と思うかもしれないが、アメリカでは正式な遺言状を用意した方がよい理由がいくつかある。例えば病気になり入院する。病院で本人が意識不明になった時には延命治療をするかどうかは医師の判断でなく、家族の意思に委ねられる。この時、家族の誰が判断決定をするかなど、委任権(Power of Attorney)を明確にしておくよう主治医は示唆するわけである。
若くても事故にあったり病気になることだってある。夫婦共亡くなった場合、残された子供(達)は誰が後見人になるか、家は、資産は、誰が処理するか等、家族と相談した上で生前遺言状を用意する若い人も少なくない。
家族のゴタゴタを避けるためにも
「遺言状」という響きは凶々しいが、生前に法律的にきちんとしておけば、病気になったり死亡してからさまざまな問題が家族内で起きることが避けられる。
日々銃撃事件が起きるシカゴでは危険に遭遇する率も多いし、若くて元気でも事故で亡くなったり、戦死する人さえいるアメリカ。
生前遺言状は何度でもいつでも弁護士に依頼して変更ができるので、そう大げさに考えず、一個人の義務と思えばよいのではないか。
アメリカは家族にさえ甘えられない、という厳しい家族関係であるのかもしれないが。
Akemi Cohn
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com
コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。
89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。
Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。
アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。
シカゴ市在住。