住まいの安全・安心・快適をサポートする「スクエアJS」
戦後の深刻な住宅不足を解消するために誕生した集合住宅、いわゆる「公団団地」。 昭和30年代以降に大量供給され、今も各地に多数存在している。しかし、そういった古い物件は「設備が老朽化している」「エレベーターがない」「段差が多く生活しづらい」などの問題が表面化してきている。住人が高齢化している今、これらは深刻な問題となってきており、既存物件の有効活用という観点からも、再生策が急務となっている。 そんな中、UR都市機構の住宅管理等を主業務とする日本総合住生活(株)(JS)が新しい改修技術の開発等を行なう機関「スクエアJS」を見学する機会を得たので、その時の模様をお伝えする。
団地暮らしを支える総合施設
JSは、1961年の設立当初からUR都市機構の住宅を主な対象とし、集合住宅の総合的な管理と修繕を行なってきた。
同社の機関「スクエアJS」は2006年、さいたま市桜区「田島団地」の隣に誕生。集合住宅における改修技術開発の他にも、水道水の水質検査や緊急事故の受付や処理などを行なう機能を1ヵ所に集約した複合施設。「本館」「ストック技術実験館」「ストック技術提案館」の3編成となっている。
施設内には、ユーザーが目で見て体験できるように、見学できるスペースや同社が開発した製品・工法の展示フロアも多数設けられているのが特徴だ。
団地の課題に実証で取り組む
ストック技術実験館は、団地における効果的な改修技術や製品を開発するため、実際の住戸モデルを使ってテーマごとの実験、評価を行なっている。
団地再生の大きな課題の一つである既存物件へのエレベーター(以下、EV)の設置。同館では、建物の“南側”と“北側”で異なるタイプを実証している。
南側は、既存のバルコニーにEVを隣接して設置し、居室への出入りを検証。
バルコニーにEVを設置するメリットとして、「全住戸の完全バリアフリー化」「ほかの棟に日陰を落とさない」「各住戸へのアクセスと離れた場所での工事ができる」などが挙げられる。
設置されたEVに筆者も試乗してみた。まずエントランスが広くベンチなども設置してあり、明るくデザイン性も高い。ただ上階に着くとEVと各バルコニーの距離が短く狭くおどろく。さらにバルコニーには開き戸タイプの扉が設置してあるため、これを引くとEV前の空間がいっぱいになってしまい、せっかく段差解消をしていても車イスなどでは入室に苦労するだろう。これを引き戸タイプにするだけでもだいぶ使用勝手が良くなるかもしれない。また住戸とEVが直接つながっていることから、防犯面の課題も多いように思えた。
北側には、EVを設置することを想定した共用廊下のみが新設され、EVから廊下、そして居室への出入り等を2パターンで検証している。
案1では、共用廊下を2.5、4.5階の階段踊り場につなげ、EVが停まるように設置するというもの。「全住戸においてウォークアップが軽減される」「EV設置台数を最小に抑える(基本は1基/1棟)」などの利点がある。
案2は、同じく共用廊下を利用して各階に停止、そこから0.5階分の階段を下がり、窓を第二の玄関に改装して利用するもの。もちろんバリアフリー設計のため、非常に利用しやすくはなるが、この0.5階分の段差が後々生活にどう影響してくるのか…。
そして両案とも、共用廊下にゆとりがあるので、例えば買い物帰りの住人が数人すれ違うことは容易であるのはもちろん、ちょっとした会話をしたりなどコミュニティとしても活用できそうである。
しかし各住戸の窓に面して廊下が設置されていることから、プライバシーの侵害が懸念される。実際に住戸側から外を見たのだが、廊下の存在が非常に気になり、目の前で近所の奥様方が井戸端会議を始めてしまった日には、気が気でなくなるだろうと感じた。
南・北とも一長一短といったところだが、URの職員を中心に行なったアンケート調査(回答者数:323名、実施期間:07年8月22日~10月3日)によると、北側(案2)、南側、北側(案1)の順で人気となったという。
評価内容は、上位から「各階に停止すること」「プライバシーに対する配慮」「バリアフリーが不十分」などが挙げられた。
また同館内には、昭和40年代標準設計の居室にリフォームを施した部屋もある。
同社が提案しているシステムキッチンや洗面台を導入しているほか、スイッチを低め、コンセントを高めに設置したり、ベビーカー等がおける土間収納など「子育て支援認定項目」に該当するようなつくりとなっている。他、間取り変更ができる可動間仕切りや防音対策である重量衝撃音低減床構造なども採用している。
従来のファミリータイプの部屋から、スケルトンにした後、間取りを大きく変更。水回り面積も広くし、玄関からの導線をスムーズにした。
修繕・改修ノウハウを体感
また「提案館」では、中古団地物件を快適なものに蘇らすために、同社が開発した設備や工法を、Before・Afterでわかりやすく展示。実際に触れながら体験できるような仕組みになっている。
なかでも注目されている設備コーナーは「サッシ改修」。老朽化した既設窓枠を活用し、ほぼ変わらぬ開口部、段差もできないアルミサッシ改修方法(GRAF工法)を提案している。マンションではリフォームする際、外部に面したサッシの交換や塗装が禁止されていることがほとんどのため、悩まされるユーザーも多い。この工法であれば、元を生かしたまま新品同然にすることが可能である。
改修技術を多方面でも活用
このような多くの技術は今後、同社が対象としてきた団地物件にとどまらず、より広い分野で活用されるべきであろう。
同社技術開発研究所所長・吉山耕成氏は「これまで当社が培ってきた技術は、汎用性が高いはず。今後競合他社とともにさまざまな改修技術のアプローチを行なっていきたい」と話す。
現在、国は「長期優良住宅」の実現に向けて動いている。今回の見学で痛感したことは、団地再生の難しさだ。実際に躯体がしっかりしていたとしても、あまりに仕様が現在のニーズに適合していないと設備を後付けするのも厳しい。
今後、丈夫な家づくりはもちろん重要だが、将来の「再生」を見越したインフィル部分を提供できるようにしてくことがこれからの住宅ストック循環社会では必要不可欠であろう。(umi)