記者の目

2010/4/28

ある単身女性の“不動産ころがし”記

女性ユーザーの本音から実務のヒントを探る!

 3月19日更新の「海外トピックス」では、「アメリカ・シカゴの物件購入者のうち、独身女性が男性の2倍を占める」と、単身女性が不動産マーケットを牽引していくと紹介されているが、日本においても働く女性が増えるなか、単身で不動産を購入する女性が増加傾向にあるときく。  一方、飲食店などの一般的なサービス業において、女性が集まる店は人気が出るとよくいわれるが、不動産仲介もサービス業の一つであることから、女性を意識したサービスの提供や質の向上が集客全体の呼び水になる可能性は高い。  また、そもそも昔から住宅選択の決定権は女性にあるといわれていることから、女性ユーザーの「生の声」は業者側にとって貴重な意見であるはずだ。  今回、出版関連の懇親会で出会い、インタビューさせていただくこととなった「三鷹さん(仮名)」は、フリーランスでデザイナーをされている女性単身者で、25歳からおよそ10年の間で3回の不動産の買替え(住替え)をしている。そこで、単身女性としての買替えエピソードとともに、これまで感じてこられた率直なご意見を伺った。インタビュー形式で紹介する。

仲介ビジネスの活性化には、便利なサイトや魅力的な物件開発だけでなく、サービスそのものの見直しも必要。不動産業でも女性を意識したサービスの提供や質の向上が集客全体の呼び水になる可能性は高い(写真はイメージ)
仲介ビジネスの活性化には、便利なサイトや魅力的な物件開発だけでなく、サービスそのものの見直しも必要。不動産業でも女性を意識したサービスの提供や質の向上が集客全体の呼び水になる可能性は高い(写真はイメージ)
顔写真の代わりに、ご本人に自画像を描いていただいた。三鷹さん(仮名)は、メーカーにデザイナーとして入社。退職後、現在フリーランスのデザイナーとして活動している
顔写真の代わりに、ご本人に自画像を描いていただいた。三鷹さん(仮名)は、メーカーにデザイナーとして入社。退職後、現在フリーランスのデザイナーとして活動している

身のたけに合った価格の不動産を
短期ローンで購入

―初めての不動産購入は25歳のときで、そのときはまだ会社勤めだったと伺いました。購入のきっかけは?
 三鷹さん(以下、名称略)「当時は、メーカーに勤めて3年目だったのですが、帰宅が深夜になることも多く、両親へ負担をかけないように、一人暮らしを始めることにしました。
 最初は購入という発想はなく、賃貸で探していたのですが、元々不動産の購入・買替えなどをして、不動産に関する知識が豊富だった父に『賃貸はもったいないから』と言われたことがきっかけとなり、購入することになりました」

―そのときの物件の概要やローン、その選定基準を教えてください。
 「東京の自由が丘にある築20~30年のマンションで、30平米1,000万円台でした。元々ご夫婦が住んでおられた2DKだった間取りを1Rにしたほか、床材などを張り替え、リノベーション費用として別途200万円かかりました。
 頭金を現金で支払い、短期間で支払いきれる10年の住宅ローンを都市銀行で組んだと記憶しています。

 決め手としては、身のたけに合った価格であること、東南に面しており景色が良かったことなどですね。
 でも、この物件、駅から遠いなど購入した時点で満足しておらず(笑)、あくまでもファーストステップとしての物件ならいいんじゃないかくらいに捉えていました。購入してからも、次は『こういう物件に住むぞ』と毎日考えていましたね」

―購入に対しての不安は?
 「知識がなかった分、『そういうものなんだ』と捉えて、あまり不安はありませんでした。父に『住み替えたくなったらどうするの?』と相談すると、あっさり『買い換えればいいじゃん』と言われ、『あっ、そっか』と。それは、アドバイスをしてくれる父がいたからこそなんですが。
 ただ、不動産はよく負債と紙一重といわれますので、“身のたけにあった物件を、短期間で払いきる”というのは意識してきました。

 それと、あるテレビ番組で80歳くらいの老夫婦が部屋が借りられず、路頭に迷われているのを見て、購入よりも将来への不安があり、それも購入に至った一因でしたね…」

―最近は女性を意識した商品・サイトなど増えていますが?
 「1件目を買った頃はそんなになかったように思います。
 逆に当時は何だか恥ずかしくて、周囲の人に話せませんでした(笑)。あれこれ詮索されるのが嫌だったんです。今は購入者が周りにも増えてきたので気軽に話せますが…。
 ただ、単身女性で買替えを繰り返す人は、やはり珍しいようで、変わり者と思われているようです(笑)。友人からは不動産購入の際によく相談されます。物件内覧などにも何回も同伴しました」

―次の物件は?
 「1件目購入から4年後の29歳のときに目黒駅近くの築35年、東南向きで景色の良い55平米・2DK、リノベ済みのマンションを2,000万円台で買いました。1件目をを売却し、ローンを組み替えました。そのとき、ちょうどフリーランスに転身したときでしたが、1件目と同じ都市銀行にお願いしたので、特に問題なくローン申請は通りました。

 この物件、山手線内で利便性が良く、友人たちからの評判はとても良かったのですが、廊下に“G”が出たり、気持ち的にも何だか居心地が悪くて(笑)、こちらも購入時から次の物件のことを考えていました」


ステップアップしながら
“マイ・ベスト”を探す

―1件目もそうですが、買い換えられたときには、すでに次の物件を想定しているのですね!(笑)
 「はい(笑)。
 “住まい”は生きていくうえでとても重要ですから、妥協はしたくないという思いがあって…こだわりが強いのかもしれません。かといって、これは持論ですが、良い物件が見つかるまで立ち止まっていると、結局買い損ねてしまうと思います。最初から自分にとってベストな物件はなかなか出会えないもの。そのときの自分にとって、ある程度の条件を踏まえていれば、不動産も車などと同様、自分の趣向の変化や財力に合わせてグレードアップをしていくのがいいと考えています。

 私の場合、不動産自体がとても好きなので、『次はこんな住まいを買うぞ』という気持ちが仕事の原動力になっています(笑)。3件目である今の物件は気に入っているので、その欲も今はあまりありませんが」

―その3件目についても教えてください。
 「少し間が空いて、2件目購入から8年後、学芸大学駅から徒歩10分以内に、築20年、60平米のマンションを4,000万円台で購入、前物件は購入金額とほぼ同額で売却しました。頭金を現金で支払い、違う銀行で改めてローンを組み替えました」


情報収集の要は
自分の“目”と“足”

―物件へ求める条件、また、物件や近隣環境で「ここは要チェック」というポイントは?
 「今は、駅から近い、ある程度の広さがあることですね。街ににぎわいがあることも重要です。
 物件では立地はもちろん、水回り、配管は気にします。配管が老朽化して、臭いが気になる場合などは、改修が可能か確認のうえ、工費を含めて交渉します。後、新耐震基準に適合しているかも気をつけています。 
 よくモノを買うときに『ピンときた!』などといいますが、『ここに住みたい!』というインスピレーションも大切にしています」

―情報収集方法を教えてください。
 「入口は不動産情報サイトが多いですが、アナログな方法である、現地の見学が一番重要だと思っています。
 オープンルームはもちろんですが、気に入った物件には時間帯を変えて何度も足を運び、周辺をウロウロ散策するようにしています。現地に赴くと『意外に道が広いな』『車通りが少ないな』『夜道が暗いな』などさまざまな発見があります。
 また、日常でも自然に街を見るようになっていて、例えば、バスの中からでも『あそこのマンションは、空室があるかな』などと自然と目が向いています」


仲介に限らず、心温まるアフターサービスが
家族ぐるみの付合いに発展

―仲介不動産会社、もしくはその担当者に対して、印象的な出来事はありますか?
 「1、3件目は大手不動産会社、2件目は地場の中小不動産会社でしたが、なかでも2件目のご担当をしてくださったMさんは、サービス精神やコミュニケーション能力が高く、フリーや女性だということに偏見がありませでした。
 オープンルームをあちらこちら回っているときに出会ったのですが、最初から印象が良かったので、FAX番号をお伝えしていたところ、定期的に間取り図などを流してくださったんです。そのなかから気に入った物件があったので、ご相談したら首尾良く物件を案内してくださり2件目が決まりました。

 特に印象的だったのが、物件購入時期がちょうどクリスマスシーズンだったこともあり、引越し時に『おめでとうございます』とポインセチアを持ってきてくださったこと。そのお心遣いにとても感動しました。

 今も不動産のご相談をよくしており、友人を紹介したり、家族ぐるみでお世話になっています。父がすっかり仲良しなんですよ(笑)」

―反対に嫌な思いをされたことはありますか?
 「最初に賃貸を検討した際、男性の担当者から何度か会社に連絡があり、私的な食事の誘いを受けました。公私混同もそうですが、個人情報を悪用されたことがショックで、そこからはオープンルームなどで住所など記載する際に気をつけるようになりました。

 オープンルームなどでは、明らかにウソとわかってしまうマニュアル対応が多いのも気になります。チラシで気になった、とある大手不動産会社の物件見学に行くと、壁のシミがひどく汚くてとても人が住める状態ではないのに『実は今買いたい人が2人いらっしゃいますけど、どうしますか?』と言われました。
 また、すぐ年収を聞いてきて、初対面では抵抗があるこちらの思いとは裏腹に『この物件、ほかの方がいるので急いだほうがいいですよ』と言われたり、次の見学日を設定していたのにその当日になって『実は昨日売れました』と言って遠まわしに断ってきたり…、といった対応に以前は多く出会いました。最近は、売れない時代のせいなのか、あまりお見受けしなくなりましたが…。

 あと、悪気はないのかもしれませんが、自社物件で『ほかの業者には売らせませんよ!』など、ほかの業者を引合いに出されるのも気になります。すごく厳しい世界だと思いますので、お気持ちはわかるのですが…」

―担当者は女性の方がいいと思ったことは?
 「個人的に性別は特に問いません。宅建免許の保有者で、判断がすぐにできる方にお願いしたいと思っています。ただ、男性だとさっきお話した賃貸仲介会社の方のようなことがある可能性も…と考えると、一般的には女性だと安心ということもあるかもしれません」


不動産購入は、担当者のサービスで決まる?!
求められる“不動産アドバイザー”

―不動産会社・担当者に求めることとは?
 「気持ち良いサービスが第一だと思います。
 私は、先ほどお話したMさんと出会えて本当に良かったと思いました。購入した後でも理事会のことなど、まるで“主治医”のようにいろいろ相談しています。

 不動産は大きな買い物ですから、もっと、サービスに力を入れても良いように思います。担当者の『一挙手一投足』で購入するか否かが決まるといっても過言ではありません。

 例えば、オープンルームでは、物件自体に魅かれるものがなくても、担当者のサービスが良ければお顔も覚えていますし、名刺を大事にとっておいてまた連絡しようかなと思います。
 そもそもオープンルームは、女性一人で入るのに、多少の抵抗を持つ方も多いはず。気さくな雰囲気で、過度な接客はせず、『いつでも電話してください』と名刺をくださるスタンスのほうが、こちらとしても気が楽になります。『どうしてもこれだけは書いてください』と執拗に住所の記入などを迫られると、例え物件が素敵でも遠慮してしまいます。

 また、私の場合、不動産をよく知っている父の存在は大きかったと思います。今思うととてもいいきっかけを与えてくれたなと感謝しています。不動産会社の方が、『女性一人でも不動産購入はできるんだ、住替えもできるんだ』ときっかけづくりをしていただけると、あと一歩を踏み出せる方も多いのではないでしょうか。
 その際、インターネットだけでうたうのではなく、Face to Faceの不動産アドバイザーとして、将来の買替えも見越した相談に乗ってもらえたら嬉しいですね」

―最後に今後の希望物件をぜひ教えてください!
 「今のところ、現在の物件を気に入っているので住替えの予定はありませんが、一軒家をすべて自分好みに改装したり、老後の田舎暮らしをしたりなんかも憧れますね」


☆゚・*:.。. .。.:*・゜

 ユーザーへの取材は当コーナーでは初めて。個人情報の関係で、残念ながら仮名でご登場いただくことになったが、普段なかなか耳にできない(業界の人間としては、多少、耳が痛いご意見も…)、ユーザーの率直な意見を聞くことができた。
 あくまでも個人の意見であるが、お話のなかには、「仲介会社として今後どうあるべきか」のヒントが多く含まれていたように思う。
 ちなみに三鷹さん、現在お住まいのマンションでは、管理組合の理事もしておられ、「分譲マンションは管理を買うとよくいいますが、家は生き物。手をかけないとすぐわかる」と話されながら、理事の高齢化や管理会社の対応など、現在のマンション管理にまつわるお話もいろいろしてくださった。それはまたの機会に。(umi)

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テナント間で『向こう三軒両隣』」を更新しました。ご近所さんと助け合いながら暮らす大切さや文化を表す言葉、「向こう三軒両隣」。近年この言葉が、商業施設のテナント間でも意識されるように。ビジネスライクな関係性を抜け出し、有事の際にも備えた関係性構築の大切さが再認識されています。