記者の目

2010/5/7

印刷工場をオフィス・商業施設に再生

倉庫が集積する無機質な湾岸エリアを
新たなクリエイティブ・スポットに

 東京の湾岸エリア「日の出」に、かつてタブロイド紙「夕刊フジ」を印刷していたビルがある。さまざまな情報を編集、発信し続けていたそのビルも、3年ほど前から機能を停止。このたび、(株)リビタが既存の建物をコンバージョンし、新たなカルチャー発信基地「TABLOID」として再生させた。  同プロジェクトは、アーティストやデザイナー、スタイリスト、フォトグラファーなどのクリエイターが集い、それぞれが刺激し合って情報を発信していくことで、「TABLOID」はもちろん、湾岸エリア全体をも活性化させる起爆剤としての役割を果たそうという試み。  オープニング前の建物をリポートする。

「TABLOID」外観。倉庫が集積する無機質な湾岸エリアにあって、一際目立つオシャレな建物に再生した(画像提供:(株)リビタ、以下同)
「TABLOID」外観。倉庫が集積する無機質な湾岸エリアにあって、一際目立つオシャレな建物に再生した(画像提供:(株)リビタ、以下同)
3年前に機能が停止したタブロイド紙の印刷工場だった頃の外観
3年前に機能が停止したタブロイド紙の印刷工場だった頃の外観
外壁一面に施されたタイポグラフィが通行人やドライバーの目をひく
外壁一面に施されたタイポグラフィが通行人やドライバーの目をひく
印刷工場の設備は撤去せずにほぼ残し、明るい白に壁を塗り替えることでインダストリアル感を残しつつ再生
印刷工場の設備は撤去せずにほぼ残し、明るい白に壁を塗り替えることでインダストリアル感を残しつつ再生
立体的に浮かび上がる文字(写真上・中)、約100ヵ所に書かれたサインアート(写真下)など、建物内には遊び心のあるさまざまな工夫が
立体的に浮かび上がる文字(写真上・中)、約100ヵ所に書かれたサインアート(写真下)など、建物内には遊び心のあるさまざまな工夫が
印刷工場の風呂場はできるだけそのまま残し、フォトスタジオに。入居者のオリジナリティが発揮できる
印刷工場の風呂場はできるだけそのまま残し、フォトスタジオに。入居者のオリジナリティが発揮できる
リフレッシュするためのアメニティとして入居者用に貸し出される自転車
リフレッシュするためのアメニティとして入居者用に貸し出される自転車

ニューヨーク「SOHO」のような魅力的なエリアに

 今回のプロジェクトの事業主は、(株)産業経済新聞社。廃止した印刷工場の有効活用法をコンペで募ったところ、リビタと(株)オープン・エーが提案するコンセプトに賛同、リビタがトータルプロデュース、オープン・エーがトータルディレクションを手がけ、このプロジェクトはスタートした。
 「多様な情報を扱うタブロイド紙を通じて、世の中へ情報を発信し続けていた建物です。まったく新しい建築物に変えるよりも、多くの影響を与えてきたというリスペクトを込める意味で、既存建物をそのまま残し、コンバージョンすることを提案しました。手法は違えど、そこで働き、集まる人々の関わりによって新たなカルチャーが生まれる場所、発信される場所として生まれ変わっていくことをめざし“TABLOID”と名付けたのです」(同社ストラテジックソリューション部エグゼクティブプロデューサー・原田康弘氏)。

 今ではアメリカを代表するカルチャーの発信地の一つとなったニューヨークの「SOHO」エリアも、1960年代には、19世紀末に建てられ廃業した繊維・衣類工場や倉庫など多くの建物が放置され、閑散とした状態だったという。天井が高く、窓が大きくて明るい部屋が特徴的だった建物は、芸術家やデザイナーたちの作品制作の場として、次第にロフトやアトリエに転換されていった。さらに、彼らが情報を交わすことのできるレストランやギャラリー、ライブハウスなどが立ち並ぶようになり、次々と新しいカルチャーが誕生し、まち全体のポテンシャルを高めるエネルギッシュなエリアとなったのだ。
 「TABLOID」も同様に、すでにある建物をコンバージョンし、クリエイターの創造力を刺激して新たなモノを創造、発信していく場になること、ひいては湾岸エリア全体のポテンシャルを拡大していくことをめざしている。

「働く」「遊ぶ」「集う」を楽しめる空間

 「TABLOID」は、1階がカフェとイベントも開催できるギャラリー・スタジオ、2階がフォトスタジオとオフィス、3階がアパレルブランドのプレスルームとオフィス、4階がスモールオフィスといった構成で、およそ20件のテナントが入居する予定。すでに8割(4月9日現在)が契約済みで、5月11日のオープニングイベントに向け準備を進めているところだ。

 さて、クリエイティブな仕事に必要なファクターとは何だろう。それは、新たな発想を生み出すための刺激。その刺激を得るためには、人と人とのコミュニケーションが不可欠だ。併せて、頭を切り替えるための遊びの要素や、心身の疲れを癒すことのできる空間も必要ではないだろうか。そう考えたリビタは、ワークスペースやアトリエなどの施設のほかに、さまざまなリフレッシュ空間を充実させた。クリエイティブな仕事には、「働く」「遊ぶ」「集う」「食べる」「リフレッシュする」など多様なファクターが混在することが重要だと考えたのだ。

 例えば、エントランスには、入居者同士や来館者とのコミュニティの場として、カフェ&ブックスペースを設置。また、クリエイター同士のつながりを強めるため、イベントも開催できるギャラリー・スタジオを併設する。こうしたスペースでイベントなどを開催することにより、テナントや集まってくるクリエイターのコミュニケーションが図れるばかりでなく、もっと広い範囲からの集客も期待できる。
 リフレッシュコンテンツとしては、ランドリールームやシャワーブースなどを設けるほか、湾岸エリアを楽しむアメニティとして自転車も貸出しするのだとか。絶えず新しいものを生み出していかなくてはいけないクリエイターたちの快適なワークスタイル・ライフスタイルをサポートする工夫が、「TABLOID」には散りばめられている。

あえてアレンジできる創造性を残したオフィス空間

 見学中、オープニングに向けて作業をしているあるショップの男性スタッフに遭遇した。工場見学の時点で入居を決めていたという彼は、「以前の工場の設備がほぼ残されていて、素材の面白さがある。部屋のアレンジを自由に行なうことができるので、クリエイター心を刺激される」と話していた。

 湾岸エリアに新たに誕生した「TABLOID」。個性派クリエイターたちがどんな情報、カルチャーを発信してくれるのか、気になるところだ。1年後、2年後、「TABLOID」はどのような姿に変わっているのだろう。その姿を追ってみたい。(I)

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2024/12/23

「記者の目」を更新しました


テナント間で『向こう三軒両隣』」を更新しました。ご近所さんと助け合いながら暮らす大切さや文化を表す言葉、「向こう三軒両隣」。近年この言葉が、商業施設のテナント間でも意識されるように。ビジネスライクな関係性を抜け出し、有事の際にも備えた関係性構築の大切さが再認識されています。