不動産的視点からみた上海
上海というと、何を思いつくであろうか?タイムリーな話題であれば「上海万博」であろうし、漠然と「成長が目覚ましいまち」といったところであろう。 7月末、海外メディアに対し、中国人民銀行副行長・国家外匯管理局局長の易剛氏は、「2010年第2四半期に中国経済が日本経済を追い越しGDP世界第2位になった」と述べた。ただし、GDPは実質GDPではなく名目GDPということもあり、日本を超えたと一概には判断できない部分もあるという。 最近、記者自身が肌で感じ、目で見てきた「上海の内情」をレポートしてみたい。
いざ、「上海万博」へ!
5月1日に開幕した「上海万博」。開幕から115日経過した8月24日時点の入場者数は累計で4,400万人を突破したという。
記者が6月下旬に訪れた「上海万博」は、開幕当初のような混雑ぶりではなかったが、それでも、人気パビリオンでは3~4時間待ちは覚悟しなければならない状況であった。混雑が予想されるパビリオンでは、入場券の事前配布を行ない、その入場券に記載されている時刻に入場できるというしくみをとっている。ただし、最も人気の中国館は、開園1時間半以上前から並んでも入場券を入手することはできず、開場5分もしないうちにその日の入場券は終了していた。
人気のパビリオンは、「中国館」、「サウジアラビア館」、「日本館」。ヨーロッパのパビリオンが出展するCゾーンも人気のようだ。「サウジアラビア館」では最長9時間待ちもでたという。
「浦東陸家嘴(Pudong Lujiazui)」の開発
万博会場の舞台となっている上海市は活気にあふれている。なかでも「上海金融環球中心」(通称:上海ヒルズ)などの超高層ビルが林立する「浦東陸家嘴(Pudong Lujiazui)」は、日本の「丸ノ内」、「西新宿」を凌ぐ勢いだが、訪れたのが休日ということもあり、オフィスワーカーはほとんどみられず、観光客がまばらにいる程度であった。
今後もさらに計画は進められているようで、「上海金融環球中心」の隣には「上海センタービル」が2014年に完成する予定だ。127階建て、高さ632メートルと世界一の超高層ビルとなる。
上海のオフィスマーケットは、今どのような状況なのであろうか?
シービーリチャードエリス(株)発表の上海全体の2010年第2四半期の空室率は11.9%(対前期比▲2.0ポイント)。エリア別に、長寧(changning)7.7%(同▲2.0ポイント)、黄埔(Huangpu)12.1%(同▲1.6ポイント)、静安(Jing'an)16.3%(同6.7ポイント増)、陸家嘴(Lujiazui)15.9%(同▲1.1ポイント)、盧湾(Luwan)6.1%(同▲4.4ポイント)、徐匯(Xuhui)3.5%(同▲6.5ポイント)、昆明(Zhuyuan)8.0%(同▲0.8ポイント)。静安(Jing'an)では空室を抱えたまま竣工したビルがあったため、大幅な上昇となった。
日本の都心部と比べると、空室率10%超えは高めの水準といえる。
上海の不動産マーケットに精通するブローカーは、「上海のオフィスマーケットは、2010年上半期には底打ち、下半期にかけて反転してくるだろう」という。また、「底値で確保しようとしている欧米系の牽引と、各国企業の中国に対する期待、良くも悪くも中国マーケットでやっていくしかないかという流れがこれを後押している様子が見られる。商業、倉庫、工場、土地価格、住宅レントは軒並み上昇している」と話す。
なお、住宅売買については、買い控え・売り控えで一時期のような過熱ぶりは冷めつつある。ただし、取引量は激減したものの、価格はそれほど落ちてはいないようだ。
上海のマンション購入は日本よりも難しい
上海の独身男性は、「結婚するためにはマンションを保有していなければならない」というのが定説のようだ。もちろんすべての人がそういう訳ではないが、日本以上に分譲マンションを持っているか否かで判断される厳しい社会だという。
中国政府直属のシンクタンクである中国社会科学院が発表した「2010年 不動産発展報告」によると、高騰が続く住宅価格について「一部の都市ではすでに普通の購入者が受け入れられる上限を超えており、これ以上の上昇余地は限られている」との認識を示している。金融政策の調整を通じて投機的な住宅購入を抑える必要性にも言及。具体的には、中国人民銀行(中央銀行)が利上げなど本格的な金融引き締めに踏み切った場合は、不動産価格の大きな抑制要因になり、大都市の住宅価格は年後半にゆっくりと下落に転じる可能性がある、との見通しを示した。
このように今後、住宅価格は調整局面に入る可能性が高いようであるが、上海都心部のファミリー向けマンション価格は日本円にして、2,000~3,000万円程度。一等地の高級マンションとなると、日本の都心に近い水準のようだ。一方、中国国家統計局によると、中国人の09年の平均年収は都市部住民で1万7175元(日本円にして約23万円)。
住宅価格と上海市民の年収はあまりにもかけ離れており、住宅購入のため、転職して都心から離れるケースも多いという。また、一般の住宅購入にはローン利用が必須であり、今後の金利の動向が気になるところだ。
格差社会の行く末
まだまだ成熟したマーケットとは言い難い上海マーケットであるが、オフィスビルに対する積極的な投資、市民の年収とは大きくかけ離れた住宅価格など、記者には一部の階層のみでの盛り上がりのようにも見えた。
所得格差の拡大や、ローンによる不良資産が今後さらに積み重なる状況は、健全なマーケットの成長には繋がらないのではないかと危惧する。まずは、上海万博が終了する11月以降のマーケットの動きに注目したい。(tam)