三井不動産レジデンシャルの場合
住宅・不動産事業者にとって、エコロジー(環境)は最も重要なキーワードの一つになりつつある。「住宅エコポイント制度」のスタートもあり、ユーザーの「エコ」への関心も徐々に高まり、省エネ機器の導入やCO2削減など、各社は競い合うように「エコ」への取り組みをアピールしている。 しかし、そのスタンスや力の入れ具合は、千差万別だ。そこで、住宅・不動産各社のエコへの取り組みを、不定期連載していきたい。まずは、業界を代表するディベロッパーである、三井不動産レジデンシャル(株)の取組みを紹介しよう。
住民に「気づき」を与えるための「目利き」役に
「ディベロッパーの“環境への取組み”と言うと、ロングライフ設計、省エネルギー・省CO2の設備機器、敷地の緑化、土壌汚染・シックハウス対策といったハードばかりに注目が集まりますが、当社の場合、こうした建築の基礎的なハードにおけるエコ対応については、すでに2001年時点でほぼ完成しています。
しかし、ただ環境性能に優れた技術を導入しただけでは、“環境に配慮した生活”が送れるまちの実現は難しい」―三井不動産レジデンシャル(株)ブランドマネジメントグループ主査の川路 武氏は、不動産業界を巡る昨今の「エコブーム」に、こう疑問を呈する。
同社の開発担当者は、よく「経年優化」という言葉を口にする。年を経るごとにまちなかの緑は濃くなり、住民同士の良好なコミュニティが育まれる。建物は徐々に劣化したとしても、まちやそこでの生活は、逆に良くなっていくという考えだ。この経年優化のプロセスから、同社が環境に配慮したまちづくりのカギとして着目したのが「コミュニティ」だ。
東京都板橋区に、同社が手掛けた巨大団地「サンシティ」(総戸数1,872戸)がある。竣工は1980年。研究所跡地を開発したマンション群は、当初うっすらとした緑に包まれるだけで、「樹木」と呼べる木はごくわずかだった。だが、竣工から30年を経た現在、同団地は深い緑に包まれている。
「これらの緑のほとんどは、当初からあったものではありません。住民の皆さまが自ら植樹して、その緑を守っていくため、さまざまなボランティア組織が発足したのです。
われわれは種をまいただけ。住民間に自発的に芽生えたコミュニティ活動が、まちを育てていったのです」(川路氏)。
サンシティでは、一部の住民の植樹活動をきっかけに、住民一人ひとりが緑の大切さに「気づき」、環境への「意識」を高めていった。
こうしたこれまでの“まちづくり”の成果から、同社は09年「環境ビジョン」を策定。住民や同社の「気づき」の積み重ねにより、住民の「意識」を変化させ、さまざまな環境活動の舞台となる「コミュニティ」を生み出し、それを発展させていくことで、環境に配慮した生活が送れるまちをめざそう、という考えを打ち出した。
そのプロセスにおいて同社は、住民に「気づき」を与えるための優れた技術や取り組みを提案する「目利き」の役割をしていくとしている。
「CO2見える化」で芽生えた「エココミュニケーション」
それでは、同社の「目利き」の一例を紹介していこう。
まず、08年から導入を開始した「CO2の見える化」。マンションの各住戸に、電力消費量とCO2排出量をナビゲーションするモニターを設置。各家庭レベルで、どれだけのCO2を排出しているかを「気づいて」もらい、省エネ・省CO2への「意識」を高めたのだ。
同社は、さらにこの流れを「まち全体」へ広げようと試みた。
例えば、柏の葉キャンパスエリア(千葉県柏市)で同社が開発したマンションの複数住戸を対象にした「柏の葉エコクラブ」を発足。クラブ会員宅に“CO2見える化モニター”を設置し、SNSを通じて、電力量やCO2排出量を各家庭と比較したり情報交換する実証実験を、09年1~3月にかけ実施した。
「参加した各家庭はCO2排出量を競い合うようになり、最終的に柏市の一般的な家庭より平均で約20%のCO2削減に成功しました。また、実験に参加した人たちが、エコクッキングやリサイクルなど、さまざまなエコ活動を提案し合う“エココミュニケーション”が芽生えました」(同氏)
その後「見える化」によるエコチャレンジは、「柏の葉エコ推進協議会」の「街エコSNS」(http://219.117.250.166/kashiwasns/)など、まち全体へと広がりを見せつつある。
「まちのクラブ活動」で環境マインド向上狙う
この「柏の葉キャンパスエリア」では、同社等のサポートによる「まちのクラブ活動」が、いま盛んに行なわれている。
川路氏は「CO2の見える化プロジェクトを通じて、環境マインドを向上させることが、コミュニティ育成のきっかけとなることが分かりました。その逆で、コミュニティを育成すれば環境マインドの向上のきっかけとなるはず」と話す。
すでに180世帯が参加する前述の「柏の葉エコクラブ」をはじめ、養蜂、土いじり、自転車など、エコ・非エコを織り交ぜ、21ものクラブが発足。月平均400人がその活動に参加している。「人間は、自分のそばに優れた活動をしている人がいるとそれに刺激を受け、ともに上をめざすようになります。こうして、徐々に住民を巻き込んでいくことで、街全体にクラブ活動を広めていきたい」(同氏)。
また、各クラブの中心となる「師匠」を、住民や地元商店街から探し出すことで、今後万が一同社のサポートが無くなった後でも、クラブ活動が定着していくよう間接的にサポートしている。
低炭素のまちづくりが、企業のブランドに
こうした同社の環境に対する考え方を具現化する舞台として提案されているのが、現在分譲中のマンション「パークシティ柏の葉キャンパス二番街」(総戸数880戸)だ。
エココミュニティ醸成のためのさまざまなサポートが、最大のウリ。「柏の葉エコクラブ」との連携によるエコ活動の展開をはじめ、エネルギーの「見える化モニター」設置とデータ共有、共用施設である「コモン」を舞台に、イベント活動やコミュニティ支援を行なう「ファシリテーター」制度の導入など、あらゆる角度から住民のコミュニティ形成をサポートしていく。
無論、ハードのエコ対策も万全。太陽光発電システムによる「創エネ」、遮熱性・断熱効果の高いLow-Eガラス、屋上緑化やバルコニーへの緑のカーテン用フックなどを導入。エコカーのカーシェアリング、レンタサイクル60台など、できる限りCO2を排出しない工夫が盛り込まれている。
個々のマンションがエコ化していくことは、それはそれで重要だが、最も重要なことは、まち全体をいかにエコにするかということ。その意味で、コミュニティからアプローチする同社のエコ戦略は、効果的な手段のひとつに違いないと川路氏は力強く語る。「低炭素のまちづくりこそ、これからのわが社のブランディングになります」(同氏)。(J)