今一度考える「著作権」とは?
不動産業界のIT化が進み、各社がホームページ(以下、HP)を持つ時代である今、それに対するコンプライアンスは重要になる。また、ユーザー側もスマートデバイス(「iPhone」「iPad」など)の普及によって、HPを見る機会や時間がさらに増えている。 今回は、ホームページ運営における「著作権」について考えてみたい。
当社が発行する『月刊不動産流通』でも紹介しているように、各社ホームページに工夫をこらし、「地域情報」「お役立ち情報」などを社長や社員の皆さん自ら取材・執筆されているケースも多い。
しかし、ある日その文章が何の断りもなく知らないHPに丸々「転載」されていたらどうだろうか?しかも、それをあたかもその会社がオリジナルで作成したかのように見せられるとなると…。そこで考えなくてはならないのが「著作権」だ。
■横行する!複製・無断転載
話が少し横道にそれるが、インターネット社会の進展により、HPに限らず、従来からある発行物の「著作権」もさまざまな危険にさらされている。インターネットを通じて多くの情報・ソフトが流通し、簡単に複製できることから、「音楽」「映像」などの無断転載や流用などが横行しているのだ。
数年前からCDやDVDなどにコピーガードなどがかかるようになったが、あまり効果はないようで、ファイル共有ソフトや動画サイトなどへのアップロード&ダウンロード数は増加。2010年1月には、改正著作権法が施行され、前述のようなファイルをアップロードのみならず、ダウンロードする行為も違法となった。
一方で、「大学生が論文をネット上の文章からコピーした」というニュースをよく見るように、「文章」の無断転載も問題になっている。ある意味「右クリック→コピー→ペースト」で作業が終わるのだから、これほど便利なものはない。サイトによっては右クリックの機能を制御しているものもあるが、これもショートカットキーは有効であったりとその効果は疑わしい。
しかしながら、時代は確実に紙からウェブに力点をシフトしており、日経新聞社の「nikkei.com」(http://www.nikkei.com)や講談社の「現代ビジネス」(http://gendai.ismedia.jp)などにもみられるように、マスコミ各社も紙からウェブへの媒体強化やメディアミックスを推進している。また、一般ユーザーもブログ、SNSなどの進展により、その発信元の数は軒並み膨れ上がっている。
つまり、そのオリジナルサイトの数だけ、著作権侵害の危機にさらされているといっても過言ではない。また同時に、例え故意ではなくても著作権侵害に該当している可能性も大いにある。
アメリカでは、1997年、トータルニュース社が運営するHPにおいて、各メディアのウェブニュースをフレーム形式(※)で掲載していたところ、新聞社数社に訴えられ、取り下げるという事件があった(ただし、著作権法違反という判決ではなく、和解による終了)。真偽のほどは定かではないが、トータルニュース側はあくまでも「リンク」という位置づけで使用していたようだ。
※フレーム:HTMLタグの一種で、1画面に枠を設けることで、別のページを表示させる方式。
■「著作物が創られた時点で発生する権利」
では、著作権とはそもそも何なのか。
まず、基本的なことだが「知的財産権」の一つであるということ。その知的財産権とは、「知的な創作活動によって何かを創り出した人に対して付与される、『他人に無断で利用されない』といった権利」を指す(文化庁HPより一部抜粋)。これには右図表のようなものが含まれる。
また、「これらの権利のうち産業財産権等は、権利を取得するために『申請』『登録』などの手続きが必要ですが、著作権は、こうした手続きを一切必要とせず、著作物が創られた時点で『自動的』に付与するのが、国際的なルールとされています(権利取得のための『登録制度』などは禁止)。これを『無方式主義』といいます」(文化庁HPより一部抜粋)とあるように、例えば、(厳密には該当しないものも出てくるが)文章を書いてHPにアップすれば、その時点でその記事を書いた人に著作権が発生したということになる。
ただ、オフィシャルなHPでは、著作権についての案内やコピーライトマークを掲載することが一般的だ。読売新聞社や朝日新聞社などのニュースサイトは、「著作権」について大きくページを割いており、使用条件などについても細かく表記している。
■損害賠償請求は可能だが…
それでは、HPにアップした文章がコピー、無断転載されていることが発覚した場合、相手を訴えることはできるのだろうか。
文化省が運営する「著作権Q&A ~著作権なるほど質問箱~」(http://bushclover.code.ouj.ac.jp/c-edu)を参照すると、「著作権法を読んでも著作権侵害者に損害賠償を求めることができると規定していないのですが、本当にできるのでしょうか」という質問に対して、「できます。確かに著作権法では著作権侵害者に対する損害賠償請求権について何ら規定されていませんが、民法の一般規定(第709条)に基づいて、故意又は過失により 著作権の侵害があった場合は損害賠償を請求することが可能です。
なお、損害の立証責任は原告側にありますが、著作権法では、権利者の立証負担を軽減するため損害額の推定規定等を整備しています(第114条)」と答えている。
ただし、実際、裁判所の判例を見ていくと、損害賠償額が少なく、刑事罰も軽いケースが多いようだ。
また、紛争に備えるには、事実関係が整備されていないといけない。文化庁への「第一公表年月日の登録」や行政書士による「著作物の存在事実証明」なども必要になってくるだろう。
■サイト運営には「モラル」を
前述の大学生論文コピー問題ではないが、そもそも無断転載は「モラルの問題」である。当然のことではあるが、そこに音楽、映像、文章があれば、それを作成した「人」が必ずいる訳だ。その人が目と足で集めた情報をもとに丹精こめて執筆したものを、ただシステマチックに寄せ集めて魅力あるHPとして見せ、それが直接の収益にならないまでも、結果的には集客アップに寄与したり、広告効果を上げたりと運営者の利益につながるのはモラルに反するように思う。
ユーザー側は、確かにそういったサイトを便利と感じるかもしれないが、今やRSSリーダーなどオフライン上で各自活用できる便利ツールは多い。もしそういったポータルサイトを作成したいならばそれ相応の労力を費やさなくてはいけないだろう。
情報がデジタル化して便利な時代だからこそ、発信者・利用者のマナーが重要になってきているのだ。
一方で、ツールやサイトが多様化するなか、おのおののルールも生まれている。例えば、最近話題の「Twitter(ツイッター)」であれば、気軽な情報の受け渡しが主目的なため、「リツイート (Retweet、RT)」機能を使用し、コメントを引用し合うのが通常だ。
これからもさまざまなサイトが生まれ、ルールも多様化・細分化し、めまぐるしい勢いで変化していくだろう。情報化社会で生き残るには、そういった各所のルールにもアンテナを張り巡らせる必要がありそうだ。(umi)