記者の目

2011/2/3

こんなときどうする? 不動産トラブル(1)
~家賃滞納者に明け渡してもらうには~

『知っておくと役に立つ! 判例で納得 不動産トラブル』より

 発行以来、根強い売行きを見せているトラブル事例対応集『知っておくと役に立つ! 判例で納得 不動産トラブルQ&A』((株)不動産流通研究所発行)。  不動産業界団体・企業等の顧問弁護士として長いキャリアと豊富な実績を持つ高津公子弁護士が、不動産取引にまつわる身近なトラブルについて、過去の判例や法解釈をもとに、その問題点やポイントなどをわかりやすく簡潔に解説しているものです。  本シリーズでは、その中から、時節に合った事例を抜粋してお届けします。

『知っておくと役に立つ! 判例で納得 不動産トラブルQ&A』
『知っておくと役に立つ! 判例で納得 不動産トラブルQ&A』

 昨今、経営が破綻する賃貸住宅が少なくありません。特にサラリーマン大家など、ローンを組んで賃貸住宅を取得・運営している場合、家賃滞納などの問題は深刻です。
 家賃保証や一括借上げなどを利用してリスクを回避しているようでも、空室期間が長期化したりすると、契約更新の際、借上賃料の利率が下がったり、そもそも家賃保証がつけられないといったケースも発生するからです。
 つまり、借主の家賃滞納というデフォルトは、貸主のローン不払いというデフォルトを招く危険があります。

 そうしたなか、気になるのが家賃滞納者への対応。
 そこで、 『知っておくと役に立つ! 判例で納得 不動産トラブルQ&A』より、家賃滞納者の対応に苦慮する管理会社からの質問と、高津弁護士の回答をご覧ください。

Q(相談者からの質問) 「当社が管理する賃貸マンションで、賃料を5ヵ月分滞納している借主がいます。もはや明け渡してもらう以外に対策がありません。どのような手段がありますか。また、自力で立ち退かせることはできますか?」

A(回答)  明渡しには、 (1)(条件を協議し)借主が説得に応じて任意に立退く、(2)(裁判所の債務名義を得て)強制執行により執行官が債務者の占有を解いて債権者に引き渡す(民事執行法168条1項)のいずれかの方法が考えられます。  貸主が自力で立ち退かせること(自力救済)は、法的に認められていません。

【解説】

 実際は、賃料を滞納する者に移転費用の用意は難しいでしょうから、任意の立ち退きは困難です。  裁判の判決以外に調停調書でも可能は可能ですが、容易ではないでしょう。というのも、調停は裁判所における話合いなので、相手の同意が必要だからです。

 一方、訴訟は結論が迅速です。賃料不払いは反論の余地がほとんどないですし、訴状が送達されたうえで被告が欠席すると、自白とみなされ、原告の請求どおりの判決が出ます(民事訴訟法159条3項)。
 ちなみに訴状は書留で送られるので、受取人が不在の場合、局に持ち帰り、一定期間に本人が局に取りに行かないと、留置期間満了で戻されてしまいます。その場合は、原告に照会があり、情報があれば、もう一度発送されます。それでも戻ってきてしまう場合、執行官が直接届けます。昼間不在のときは、早朝や夜間に届けます。

 本人が所在不明になった場合は、裁判所の掲示板に呼出状を貼って、届けたと見なす公示送達を行ないます(民事訴訟法110~113条)。この場合は、裁判長が所轄警察に本人の捜査を依頼し、所在不明との報告を待って許可します。

 公示送達は、掲示板に貼り出されてから2週間過ぎると、その間被告からの申立てがなければ、送達したという効力が生じます。また、2回目以降の公示送達は翌日から効力が生じます。その後被告不在のまま裁判に入ります。

 被告が出廷した場合の通常の裁判では、判決もありますが、実務で多いのは和解です。被告が不払いを認めて明渡しを約束した場合、何月何日限り明渡すという和解条項で和解調書を作ります。

 判決は控訴権があるので、2週間の控訴期間を経ないと確定しませんし、その間に控訴があれば、訴訟が続行します。一方、和解は調書に記載した時は確定判決と同一の効力があり、つまり控訴権がなく即時に確定します(民事訴訟法267条)。

 なお、提訴する裁判所は、被告の住所地、物件所在地、義務履行地等選択が可能です。事物管轄つまり第一審が簡易裁判所か地方裁判所かは、訴訟物の価額で決まり、140万円以下の場合は簡易裁判所になります。

 明渡しの場合は、訴訟物の価額は建物の固定資産評価額の2分の1と定められていますから、計算上は簡易裁判所の管轄が多いはずですが、不動産に関する訴訟の第一審は生活に直結するため、慎重な審理を要するとして、価額にかかわらず地方裁判所でも可との規定があり(裁判所法24条1項1号)、大部分が地方裁判所で審議されています。
 というのも、簡易裁判所はサラ金、ローン、クレジット等の訴訟で混雑しています。裁判所の規模が小さく、人員も少ないので、時間もかかります。

 ちなみに、判決で「訴訟費用は被告の負担」という場合の「訴訟費用」は、申立ての印紙と切手代を指し、弁護士費用は含まれません。勝訴後、原告が被告に訴訟費用を求償することもほとんどないのが実情です。
 理論上では、一審から上告審まで自分でやれますが、実際、訴訟は約束事が多く、一般の人には困難です。訴訟代理人は、弁護士に限られますが、簡易裁判所では許可を得れば、弁護士以外の代理が認められます(民事訴訟法54条1項但書)。
 少額訴訟は「60万円以下の金銭の支払いの請求訴訟」なので、明渡しの請求はできません(民事訴訟法第368条1項)。

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 『知っておくと役に立つ! 判例で納得 不動産トラブルQ&A』(定価650円)には、このほかにも周辺環境・騒音に関するトラブルや、融資に関するトラブルなど、身近な60事例が掲載されています。
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