山形市で大学生と賃貸住宅をリノベーション
全国各地で、賃貸物件の空室率が軒並み上昇しているが、地方都市は特に深刻な状況下にある。 一方、空室対策の有効策として注目されているリノベーション。その手法は業界内でも定着してきたが、地方都市では、「個性のある物件へのニーズが少ない」「賃料相場が低くて家賃で費用回収することが難しい」と、都心部の限られたマーケットでしか有効な手法に過ぎないというのが、多くの事業者の意識にあるようだ。 今回記者が訪れた山形市も人口約25万5,000人の地方都市。少子高齢化が進み、中心市街地の空き店舗も目立っている。そんな同市で賃貸物件の空室をリノベーション、成果を上げている取り組みがある。同地に根差して55年、総合不動産業を展開する千歳不動産(株)(山形県山形市、代表取締役社長:武田晃士氏)が参画する「山形R不動産」によるリノベーションプロジェクトだ。また、まちなかの空き店舗を活用して、地域活性化にもつながる取り組みも行なっている。 前編では賃貸物件の再生について、後編では空き店舗の有効活用について紹介しよう。












■「このままではいけない!」、リノベーションプロジェクトに参画
千歳不動産は山形市を中心に賃貸仲介・管理、売買仲介などを手掛けており、現在、賃貸物件1,000戸を管理している。時代が変化するなか、同社の管理物件も空室率が高まり、一般的なリフォームを実施するなどやれるだけの対策は行なってきたが、借り手はなかなか付かず、賃料を下げるしかないという状況が続いていた。
「このままではいけない、何か現状を打破することはできないかと考え、以前から注目していた『山形R不動産』の活動と、うまくコラボレーションできないかとこちらから申し出たのです」(同社常務取締役・水戸靖宏氏)。
「山形R不動産」とは、個性ある不動産情報サイト「東京R不動産」の旗揚げ役である馬場正尊氏が取り組んでいる事業で、同氏が教壇に立つ東北芸術工科大学(以下、芸工大)建築環境デザイン学科のゼミ生とともにまちなかの空き物件などを調査して、再生方法などを検討。実際旅館やホテルをシェアハウスに改装して学生自ら住むなどしながら、ホームページでその活動内容などを発信している。2009年からスタートしているが、同社が打診したのは10年。ちょうど山形R不動産側も、活動の範囲を広げていくために不動産のプロを欲していたため、提携関係を結び、11年1月より新生「山形R不動産」として再スタートしたのだ。
■わずか30万円で改装、即入居者が決定
「山形R不動産」が手掛けた第1号物件は、千歳不動産の管理物件で、1996年築、総戸数24戸の賃貸マンションの再生。よくある1Kの間取りの単身者向けマンションだが、例にもれず、周囲の物件と競合して、空室が徐々に増加、原状回復やリフォームを行なっても入居者は付かず、賃料も数回下げていた。
そこで千歳不動産は、オーナーに「山形R不動産」の手によって物件を再生しないかと提案。オーナーも従来と違う手法に興味を持ち、うち1戸を学生の提案によってリノベーションした。
テーマは「バリューアップ原状回復」。原状回復にはそれなりの費用がかかるにもかかわらず、見た目は周辺の物件と変わらず、差別化にはつながらないという従来の問題を、「原状回復費用」に少しだけ費用をプラスした低コストのリノベーションで解決しようというものだ。
低コストにこだわったのは、同エリアでは大幅に賃料を上げることは厳しいためだ。低コストながらも物件の価値を上げ、周囲の物件との差別化につながるような改装を提案している。同物件も工費はわずか1戸当たり30万円、家賃は7,000円アップで3万7,000円とした。
なお、芸工大が近かったことから、芸工大生をターゲットに“アトリエ”をイメージした内装に仕上げている。創作で汚すことも、収納を造作したり、壁を塗ったりなどの簡易な改装もOKとしている物件なのだ。「学生ならではの『自分たちであればどういった物件に住みたいだろうか』という借り手側の視点を生かしたデザインを採用しました。従来のオーナー側の都合で仕上げていた原状回復しやすい内装、そこからくる画一的なデザインから逸したのです」(同氏)。
同住戸の詳細は『月刊不動産流通』12年12月号の「リフォーム、リノベーション、コンバージョンで中古不動産が蘇る!」をご覧いただきたいのだが、竣工後、即芸工大生の入居者が決定した。それを喜んだオーナーは続けて2戸目のリノベーションを依頼、その物件には何とプロジェクト進捗状況を掲載していたブログを見たユーザーから申し込みがあり、竣工前に入居者が決まったという。その物件について紹介しよう。
■1Kを「パーソナル」「ビジネス」でゾーニング
前回同様、学生からデザインを募集したのだが、第2弾はコンペ形式にして優秀者には賞金も用意。「学生の参加意欲がよりわくような仕掛けにしました」(同氏)。結果、優れたデザインが集まったため、水戸氏とオーナー、馬場氏で協議の結果、数案を複合したデザインとすることに。
1Kの間取りをワンルームにしたうえ、縦に部屋をゾーニングしたおもしろい空間に仕上げた(右の「間取り図」参照)。従来あったキッチンと居室の間仕切り壁は取り払い、広がりを持たせたうえ、クローゼット側はパイン材、キッチン側はPタイルと部屋の真ん中で床材を変えて、ゾーニングを行なっている。タイル側にはキッチンから壁に沿って長い机を造作した。「木材のスペースはくつろげるパーソナルスペース、タイル側は机を活用しながらビジネススペースとして活用できるのではと考えて空間を仕上げました」(同氏)。
キッチンと居室の間はロールカーテンに、また、キッチン側にガラスの仕切りを新設することで、開放感は生かしつつ、仕切りも可能な仕様とした。
また、「バリューアップ原状回復」という考えをベースに設備などそのほかの部分はほぼ既存のものを活用、工費も40万円に抑えている。家賃は3万7,000円だ。
「工費が少し上がってもオーナーの了承を得られたのは、長期スパンを見据えてのことです。空室対策と考えた場合、3万円の物件では捻出できる費用が限られてくる。ただ、このままの状態であれば、空室は徐々に増え、10年もすれば取り壊しを考えなければいけないが、リノベーションして空室もなくなり、物件の寿命も延長できるならば、初期費用がもう少しかかってもいいのでは、と第1弾を経てオーナーともども考え方が変わりました」(同氏)。
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学生と共同で進めることで、低コストで入居者の目線に立った、画一的ではない高感度なデザインのリノベーションを実現した同事例。エリアも芸工大近くと、センスの高い人が集まる場所を選択したことに成功要因があるだろう。また、プロジェクト内容をブログで発信するなど、その集客方法にも成功の要因がありそうだ。
地方都市では難しいとされていた賃貸物件のリノベーション。今回の事例のように、その手法を工夫すれば、地方都市でもリノベーションによる空室対策は有効なのではないだろうか。
次回は、「山形R不動産」によるまちなかの空き物件の活用について紹介しよう。(umi)
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