杉並荻窪コーポラティブハウス
コーポラティブハウスを手掛ける(株)タウン・クリエイション(東京都渋谷区、代表取締役:石川修詞氏)が、 (株)コプラス(東京都渋谷区、代表取締役:青木直之氏)と共同でコーディネイトを担当した物件「杉並荻窪コーポラティブハウス」(東京都杉並区、総戸数19戸、建物名称:「OGGI」、2012年9月末竣工)を見学した。 コーポラティブハウスとは、入居者が組合を結成し、自ら建築主となって集合住宅を建設する方法。建物の建設段階から、住民同士が集まり、会合を重ねて、 一緒にプロジェクトを進めていくため、自由な設計ができ、入居前から住民同士の良好なコミュニティを形成できることなどが特長となっている。 今回は、本物件の中身を紹介しつつ、そこから見える最近のコーポラティブハウス事情について、レポートする。
居住者の好みに応じた個性的な住戸
「杉並荻窪コーポラティブハウス」は、JR中央線・丸の内線「荻窪」駅徒歩6分の立地。交通利便性が高く、閑静な住宅地という恵まれた住環境で、鉄筋コンクリート造地上5階地下1階建て、敷地面積633.93平方メートル、各戸の専有面積は60.90~90.10平方メートル。
窓の自由度を上げられるラーメン構造を採用。角部屋、ワイドスパン、メゾネット、吹き抜けなどバリエーションが豊富で、独立性のある個性的な住戸が揃っている。
見学させていただいた5つの住戸のうちの1つは、地下1階地上1階のメゾネットタイプの部屋。地下階は、キッチン、リビング、ダイニングが一体となった、コンクリート打ちっぱなしのシンプルな空間。キッチンはオーダーメイドで、オーブンレンジのサイズに合わせた棚を設置するなど、住まい手のこだわりがうかがえた。
梁が建物の裏に隠れることで、床上や天井をすっきり見せる効果がある逆梁工法を採用。サッシを天井近くまで設置して、採光を十分に確保しているため、地下の部屋ながら、開放感のある明るい空間となっていた。
2つ目の住戸は、天井のデザインが特徴的な部屋。一部天井や壁をあえてむき出しにすることで高さを出して圧迫感をなくしていた。この部屋も、キッチン、リビング、ダイニングを一体の空間として、キッチンの脇には、和室スペースを設置。来客時には、簡単な仕切りをして、接客スペースとし、普段はフリースペースとしても活用できるようにするという。
3つ目の住戸は、天窓と吹き抜けのある部屋。白を基調としたキッチンには、天窓から光が降り注ぎ、明るい雰囲気。キッチンの脇には、小部屋があり、個室として使ったり、仕切りを外せば一体の空間としても使えるようにしている。螺旋階段を上ると和室があり、2階からキッチンの様子を見下ろせるなど、コミュニケーションが取りやすいつくりになっていた。
4つ目の住戸は、見学した中で一番デザインが派手な部屋。白を基調にした住戸が多い中、壁紙に柄物や暖色系の明るい色を採用し、照明はアンティーク調のものや、スタイリッシュなものなど部屋ごとにコーディネイトしていた。
5つ目の住戸は、ワイドスパンの窓からパノラマビューを楽しめる5階の部屋。敷地は南西角地にあるため、大きな窓からは陽の光がふんだんに降り注ぎ、電車が走る様子を間近で眺められるなど、まちの様子も一望できる。また、角部屋のメリットを生かして 、ルーフバルコニーを含めた3面バルコニーとし、広々とした開放感のある生活空間となっていた。
奇抜なものよりもシンプルな傾向
一つひとつの部屋が、コーポラティブハウスならではの個性的な空間だ。
従来のコーポラティブハウスは、壁紙を派手にしたり、洗面所、風呂などのガラスやタイルの素材、照明など、一つひとつのアイテムにこだわりが強く、細かいところまでお金を掛けていたが、最近は違っている。今回見学した物件では、壁紙は白をベースにシンプルなものが多く、風呂もシステムバスを採用する人が多かった。その反面、キッチンは各住戸ともこだわりが強く、キッチン周りや収納棚は使い勝手がいいようにオーダーメイドする人がほとんど。また、家族とのコミュニケーションを大切にしたいと望む声も多く、キッチンは対面式でリビング、ダイニングと一体の空間にする住戸が大半だった。また、リビングの隣に客間を設けて、簡単な間仕切りを設置し、普段使いと来客時とで使い分けられるように、可変性のある空間にしている住戸も多かった。
全体的には、リビング、ダイニング、キッチンなど、客の目につく場所の床材や小物にはお金を掛けて、寝室や風呂場などは質素にするケースが多く、以前のコーポラティブではなかった傾向だという。「以前は、コーポラティブというと、デザインの凝ったものであったり、奇抜な色遣いのものが多かったのですが、最近では、シンプルなデザインを好む傾向にあるようです。長く住むことを念頭に考えてか、奇をてらわない、飽きの来ない内装を希望する方が多い。また、建具で仕切るなど、間取り変更を可能にして、生活シーンや、将来のライスタイルの変化に柔軟に対応できる『可変性』が 重視されています」(石川氏)。
募集価格は3,990万~6,990万円(標準価格)。募集平均坪単価は約230万円。周辺の相場よりも、2割程度安いという。入居者は、30~40歳代の子育てファミリーが多く、自由設計で行なうオプション費用は平均200万円程度だった。
住まいの選択肢の一つに
コーポラティブハウスは、かつては斬新で個性的な住まいのイメージが強く、将来的に賃貸に出したり、売却する際には流動性が低いことが懸念され、資産価値として不安な面があった。また、参加者全員で協議を重ねるため、通常のマンション購入よりも手間と時間が掛かり、敷居が高く感じられてしまう。こうした点がネックとなり、興味はあっても二の足を踏んでしまう人が多く、これまであまり普及してこなかった。
しかし、最近では、時代のニーズに合わせて、物件の外観や共用部をベーシックなものとし、住戸も間仕切り変更が可能など、可変性に富んだプランが増えてきている。また、画一的なマンションよりも、自分好みの住まいを建てられることや、広告宣伝費やマージンなどのコストが掛からず、割安な価格で購入できることに魅力を感じて、コーポラティブハウスを選ぶ人も増えているという。さらに、入居者同士の密なコミュニケーションも、昨今、人とのつながりを求める意識が高まる中、付加価値として見直されてきている。
以前よりも、認知度が向上したコーポラティブハウスは、一般的な理解も深まり、都心を中心に新しい住まいの選択肢として受け入れられている。
今後もコーポラティブハウスだからこそできる、より良い企画に期待が膨らむ。(さ)