記者の目

2015/7/7

“分譲”団地を蘇らせる!!(2)

事業者間連携で活動を加速

 前回に引き続き、分譲団地の再生に取り組む「団地再生事業協同組合」(東京都港区、理事長:金丸典弘氏)の具体的な活動内容や今後の展望について紹介しよう。

組合として団地再生に取り組んだ初弾の「すすき野団地」外観(写真提供:団地再生事業協同組合、以下同)
組合として団地再生に取り組んだ初弾の「すすき野団地」外観(写真提供:団地再生事業協同組合、以下同)
「すすき野団地」の対象住戸は築30年超の5階(エレベーターなし)。間取りは2LDK、専有面積は約50平方メートル
「すすき野団地」の対象住戸は築30年超の5階(エレベーターなし)。間取りは2LDK、専有面積は約50平方メートル
若い夫婦もしくはシングル世帯をターゲットにしぼり、キッチンを壁面に移動させた1LDKの広々とした空間にリノベーション。工事費用は約650万円
若い夫婦もしくはシングル世帯をターゲットにしぼり、キッチンを壁面に移動させた1LDKの広々とした空間にリノベーション。工事費用は約650万円
オープンルームには、近隣住民を中心に多くの人が集まった
オープンルームには、近隣住民を中心に多くの人が集まった
「団地カフェ」では、団地入居者等を巻き込んださまざまな企画を実施。写真は団地に住む介護福祉士を招き、さまざまなレクチャーをしてもらっている様子
「団地カフェ」では、団地入居者等を巻き込んださまざまな企画を実施。写真は団地に住む介護福祉士を招き、さまざまなレクチャーをしてもらっている様子
同組合が目指す、団地の将来像
同組合が目指す、団地の将来像

◆団地特性に合わせ、ブランディング

 同組合がこれまで再生に着手した団地数は5団地。組合として初めて手掛けたのは横浜市青葉区の「すすき野団地」で、600万円台の売り物件を同組合で買い取り、リノベーションした。若年層にターゲットを据え、団地ならではの通風性の良さを生かし、カフェのようなゆったりした空間を意識したリノベーション住戸を完成させたところ、反響が高く、13年9月に行なった完成披露会には3日間で200人が集まった。販売価格も約1,700万円と同団地ではかつてない高値だったが、「他にはない住戸」と買い手希望者が数組現れた。特に周囲の団地入居者からの注目度が高かったという。その後、予定価格で売却し、同組合で賃借して団地再生ビジネスのPRのためのモデルルームとして活用することにした。

 また、今年度は国土交通省の「住宅団地型既存住宅流通促進モデル事業」として埼玉県狭山市の「新狭山ハイツ」、神奈川県鎌倉市の「鎌倉グリーンハイツ」、東京都多摩市の「貝取・豊ヶ丘団地」(多摩ニュータウン内)の3団地の再生に携わっている。各団地の立地条件、入居者特性、価格帯といった特徴を踏まえて、ブランディングを行ないながら再生プロジェクトを進めている。「安いから団地ではなく、団地ならではの良さを知って選択していただけることを意識しています」(金丸氏)。

 狭山は元々入居者が自分たちでログハウスを建てるなど、ものづくり活動が活発だったことから、DIYならぬ「DIT」(Do It Together)をテーマとしている。鎌倉は文化や歴史、そして海・山に囲まれた環境の良さなどが一般的に知られているが、団地内で文化的な活動が活発なことからそうした点をコンセプトに反映していく予定だ。多摩は14年春より参画しており、現在、他団体や地元の事業者とともに再生の方向性を検討しているところだ。「郊外に立地し、利便性が良くない団地では、そのままではユーザーへの訴求力が弱い。鎌倉のように一見人気エリアでも、空き家増、価格の下落が問題になっています。何かしら特徴を打ち出したブランディングが重要になっていきます」(金丸氏)。これまで団地を住まいの候補にしてこなかった若年層に注目してもらい、改めて団地の良さを知ってもらうことが目標だ。「不況が身にしみている今の10~30歳代が購買層に上がってくると、手頃な価格で購入したい、自身で好きな空間に仕上げたいといったニーズがより高まってくるはず。そういった意味でも団地は十分魅力ある物件となるはずです」(須貝氏)。

 一方、川崎市宮前区の「平住宅」では、横浜市の不動産仲介会社とタッグを組み、再生。同組合は企画・設計を担当し、物件取得・客付けは不動産会社が担当した。6月6~7日に開催した内覧会には、会場周辺へのチラシ配布だけで50組程が集まったという。

◆入居者参加型のコミュニティ支援

 同組合には、現在、組合員・サポーターとして、クリエイター、医師、法律家など多岐にわたるジャンルの人が参加している。現在建物のリノベーションを中心に行なっているが、将来的にはソフト面も含めた総合的な提案や相談受付の体制を目指していく。「建築の部分だけでは団地再生には限界があります。高齢者・若年層両方に合う企画づくりなどを行なって、コミュニティ活性化を図りたい。例えば、団地住まいの高齢者は元気で経験豊富な方が多いことから、そういったポテンシャルを生かし、団地内のビジネス創出などにつなげていきたいと考えています」(金丸氏)。

 その第一歩として、同組合では、すすき野団地のモデルルームを活用して「団地カフェ」というイベントを開催している。“住み開き”をテーマに、バッググラウンドが多岐にわたる団地入居者のスキルを生かし、交流を図るイベントだ。直近では介護福祉士の資格を持つ入居者を講師に招き、認知症の解説やケア方法、介護のポイントなどを、入居者向けにレクチャーしてもらった。
 「団地を選んでいただく方は、自分のスタイルや暮らしを大切している人が多い。そういった方々が積極的に団地活性化に携わっていただける環境づくりを目指しています」(金丸氏)。

◆不動産会社との連携目指す

 また、同組合だけの活動では、時間を要してしまうほか、限界も生まれてしまう。そこで各地の不動産会社と提携しながら、事業を進めていくことを理想としている。「これまでの実績の中で団地再生事業は、単価は安いものの35%ほどの利益を上げられることが可能ということがわかっています。今後は不動産会社の方に団地がビジネスになるということを知っていただき、われわれが企画や調査、設計、プラン、マーケティングといったアイディア提供を行なって、買い取りや仲介などはお任せするなど協業することで、活動を加速化することを目指していきます」(金丸氏)。

※※※

 分譲団地のゴーストタウン化は世間でも問題になっている。今後同組合の活動が全国的に広まれば、各地の不動産会社にとっても新たなビジネスチャンスが生まれるだけでなく、世帯年収がなかなか上がらない若年層にとっても充実した住まいを手に入れる機会が増えるのではないか。今後、全国各地でアライアンスを組みながら、活動が加速化することに期待したい。(umi)

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