IoTで変わる賃貸住宅探し
IoT(Internet of Things=モノのインターネット)という言葉が聞かれるようになって久しい。日常生活を取り巻くさまざまなモノとインターネット(通信機能)を結び付け、通信・制御を行なうことで、ユーザーの生活にこれまで考えられなかった利便性を実現する、という考え方だ。住宅・不動産業界に関連するモノで、いち早くIoTを取り込んだものの一つが「スマートロック」。玄関のカギやオートロックを遠隔操作で開閉できるスマートキーは、住まいに入居するユーザーの利便性向上だけでなく、不動産事業者のビジネス変革ももたらそうとしている。
◆玄関ドア開閉を遠隔操作できるスマートロック
「スマートロック」とは、玄関サムターンを回転させるモーターが仕込まれた、一種の通信デバイスといえる機械だ。サムターンにかぶせるようにセットし、携帯電話等から指示を送ることで、インターネット、WIFIを介し玄関ロックをワイヤレスで開錠・施錠できる。
ユーザーは、スマートフォンにアプリケーションを入れておくことで、カギを使わずに玄関を開け閉めできる。開閉錠に必要なコードは共有でき、家族全員がカギを持たずに外出できるほか、子供が帰宅したときや友人の来訪時、オフィスや外出先から玄関を開けるといった芸当も。また、履歴が残るため、家に誰が何時に出入りしたかをチェックもできる。友人が来訪するときだけ、時間限定の「キー」をメール経由で送信することも可能だ。
自動車業界では、ワイヤレスでドアを開けることも、キーを刺さずにエンジンをかけることも、今や当たり前にできる。マンション業界でも、キーを鞄に入れたままオートロックを通ることや、ごく一部のマンションでは、キーやカードを玄関センサーにかざすだけで開錠できるものもある。しかし、基本的には「鍵」か「カード類」といったハードがなければ、玄関は開かない。これらの機能をスマートフォンのアプリケーションとインターネットに置き換えたことが、スマートロックの特徴だ。
このスマートロックだが、いまや家電量販店などで、一般ユーザー向けに販売されており、一般ユーザーの住生活向上という側面に加え、いま不動産管理や仲介の営業現場にも入り込み、その営業スタイルを変えようとしている。
◆ウェブで予約、スマホで開錠
三菱地所グループの不動産流通会社、三菱地所ハウスネット(株)は今年2月から、同社が仲介・管理する賃貸住宅で、「スマートロック」を活用した「無人内覧」を開始した。同グループが資本・業務提携している不動産管理向けシステム・アプリ開発を手掛ける(株)ライナフが開発したスマートロック「NinjaLock」を活用するもの。
通常、賃貸住宅の内覧は、ユーザーが仲介会社に出向き、営業社員と同行して見学することがほとんど。カギを借りて勝手に見に行く、またはキーボックスの番号を聞いてひとりで見に行くようなケースも稀にあるが、事故が起きた場合の責任問題もあるし、何より仲介会社が「営業」できない=成約率が下がるので、無人内覧というのはあまりない。客づけ仲介会社の案内時も同様で、キーボックスや暗証番号のロックなどは、セキュリティに不安があった。
同社は、スマートロックの「特定の相手に、特定の時間帯のみ利用可能な鍵の開閉権限を与える」特長を生かし、「希望者が自由な時間に」、「仲介会社にカギを借りに行くことなく」、「担当者の立ち合いなく」内覧できるシステムを確立している。
内覧希望者は、事前にホームページで内覧時間を予約することで、指定時間だけ有効な「カギ」が与えられる。指定時間に、直接物件に行き、スマートフォンやタブレット端末等で専用サイトにアクセスすると、玄関オートロックの開閉と、住戸玄関を開錠・施錠するしくみだ。
内覧できる部屋の内部には、物件説明のチラシが置いてあるのはもちろんだが、それとは別に、要所にQRコードを添付してある。たとえば、「物件概要」のコードをスマートフォンや携帯で読み取れば、物件概要のホームページが立ち上がる。サッシにあるコードを読み取れば、階差を変えて眺望が確認できるといった具合に、ユーザーは物件のセールスポイントをはじめ、通常であれば同行の営業社員に確認する事項も確認できる。
内覧予約は1時間ごとに区切り受け付け、複数のユーザーが同時に内覧できない。複数の部屋のキーを付与することもできるため、比較検討しながらの内覧にも対応できる。
さて問題は、「無人内覧中の事故をどう防ぐか」だが、どのキーを使って入退出したかの履歴が残るほか、時間を過ぎたキーも無効になるため、同社はリスクはあまりないとしており、さらに“こっそりと”監視カメラも付けているのだという。これは、あくまでも「緊急時の確認」のためで、常時監視ではないそうだ。
同社は、「ザ・パークハビオ 上野レジデンス」(東京都台東区、総戸数125戸)での試験導入を終え、今後は他の管理物件にも拡大していくという。
◆入退室履歴を成約率向上に生かす
賃貸仲介・管理会社にとって、スマートロックの「効能」は、「無人内覧」だけにとどまらない。そのカギとなるのは、IoTツールならではの「情報収集・分析機能」だ。
説明してきたように、スマートロックでは、内覧者の属性とキー権限が紐づいているから、データとして蓄積、分析することで内覧者特性が簡単に収集でき、間取りや家賃の分析などに生かせる。また、内覧が多いのに成約しなければ、設定家賃や住戸プランなどの問題点があることもわかる。この内覧システムを、客付け仲介会社にも開放すれば、自社の客付けに熱心な営業社員や会社、客付けの「打率」なども分析でき、より効率的なリーシングにも活用が可能だ。
スマートロックは、欧米ではすでにかなり普及していたが、サムターンの形状が日本のものと違うため、日本では導入が遅れていた。それも、様々な企業が参入し、日本独自のスマートロックのバリエーションが増えている。あと数年もすれば、賃貸物件の内覧スタイルは、今とはずいぶん違ったものになるかもしれない。不動産業界にあって、非常にわかりやすい、IoTの体現者といえよう。(J)