事業者と自治会がタッグ、まちの活性化へ
千葉県野田市で04年から10年かけて分譲された「パレットコート七光台」(総戸数1,035戸)のコミュニティ活性化に向け、分譲した中央グリーン開発(株)と地元自治会がタッグを組んだ。前編では、コミュニティ育成に向けたプログラムを実施するまでの経緯を紹介した。後編では、実際にまちのコミュニティを活性化するためにどのような取り組みが行なわれているのかをレポートする。
◆住民もコミュニティの醸成を求めていた
初の光葉町ミライ会議は、15年11月に開催。約20人の地元住民が集まり、「まちに不足しているもの」をテーマに議論した。コミュニティ形成について中心的な役割を担っている中央グリーン開発(株)経営企画課コミュニティ企画係係長の横谷 薫氏は「住民の皆さんから、『コミュニティについて思っていることを話し合える場ができただけでもうれしい』などといった言葉をいただきました。皆さん、自分が住む光葉町をどうにかしたいという思いを抱えながら、意見を出し合う機会がなかったのです。当社の考えていたことと、住民の思いが一致していることが分かりました」と、当時を振り返る。
1回目の会議では、住民の意見から、飲食店やカフェなど、“飲食する場所”がないことが課題として浮かび上がった。その後、12月の会議では「まちのコミュニケーションのあり方」を話し合い、翌16年1月の会議では、「まちに必要なもの」を協議した。その結果、“飲食とコミュニケーションスペースを組み合わせた空間”という全体像が見えてきた。その後も定期的に会議を開催し、コミュニティカフェとしての活用が決定。カフェ運営事業者を公募した。
公募条件として、コミュニティイベントへの積極的な協力、イベント案などの提案も求めた。建物を賃貸する中央グリーン開発は、月額賃料を周辺相場の約4分の1となる当初3年間5万円と設定、また、内装費用として中央グリーン開発が300万円を拠出する旨も明記し、カフェ事業者を経営面からバックアップすることにした。
◆事業リスクよりもコミュニティの醸成
公募の最終選考には、イタリアンレストランを経営するオーナーシェフと、野田市内のカフェに勤めてはいたが、カフェの経営は初めてという20歳代女性・桜井千布さんの提案が残った。自治会長や同社スタッフが面談の上、採択したのは桜井さんの提案。「事業としてのリスクを考えるならば、前者を選んだのでしょう。しかし、今回の公募はまちのコミュニティへの影響が最優先。桜井さんを運営事業者に選びました」(横谷氏)。運営事業者は、コミュニティ育成拠点の“顔”としての役割を期待される。キッチンに入ることが多いオーナーシェフではなく、初の店舗経営で自ら客の前に立ち、住民の協力を得ながらコミュニティカフェの経営をしていける桜井さんの存在が、まちにとってより大きなプラスになると判断したのだ。
7月23日に旧千葉支店で行なわれた光葉町ミライ会議では、住民にカフェの事業者を発表。その日の会議は、住民25人に中央グリーン開発のスタッフが加わり、数十人がカフェの方向性やカフェと住民の関わりについて自由に意見を出し合った。「経営計画を見ると、“なんでもやる”という意気込みを感じてとてもありがたいが、まずは経営を成り立たせてほしい」「経営を成り立たせるには、住民の協力が不可欠。自治会が住民を介してコミュニティカフェの宣伝をしてはどうか」「ポラスグループも情報発信力を生かして、コミュニティカフェをメディアにPRできるのでは」などといった意見が挙がった。
光葉町ミライ会議のファシリテーターで、(有)トータル・アジアン・オーガナイゼーション代表取締役、総務省の地域資源・事業化支援アドバイザーの林田暢明氏は、同社と光葉町自治会の取り組みに関して、「自治会の会員減少などは、全国で問題になっており、自治体が主導して自治会と連携し、地域コミュニティ活性化を図る例は少なくありません。しかし、光葉町のように分譲事業者が自社で分譲した地域のコミュニティ育成を図る例は極めて珍しい事例です」と話す。
◆住民が主体的に動くコミュニティへ
今後は、住民が主導して光葉町ミライ会議を運営していくことになる。すでに運営委員会のメンバーとして、8人の住民が立候補。カフェの賃料減額期間が終わる3年後を目指し、住民主導での会議運営に徐々に移行していく。「当社も、コミュニティカフェの大家として継続的にこの地域に関わっていくことはできますが、住民自身が自らまちの将来を考えることが重要です。あくまで当社はバックアップに徹します」(横谷氏)。
8月27日に行なわれた、旧千葉支店をカフェに改装するためのDIYイベントには、地域の親子など約30人が参加。職人の指導のもと、外構部のリニューアルと、カフェのシンボルフラッグづくりを行なった。複数の参加者が、コミュニティイベントへの参加が初めてだった。
光葉町自治会の自治会長を務める菊地晃史氏は、「光葉町は2つの小学校区に分かれています。子供が違う学校に通っていると、親同士も付き合うきっかけがありません。このようなイベントをきっかけに知り合い、コミュニティが活性化するのはうれしい」と話す。9月には電気配線や水回りなどの工事を実施し、再びDIYイベントを開き、住民が自らの手で内装仕上げなどを行なう予定だ。
菊地氏は「私は最初の分譲の時に家を購入し、10年以上このまちに住んできました。コミュニティカフェを中心に、これからまちがどんどんよくなっていく予感がして、とても楽しみです」と、笑顔で語る。
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今回取材した七光台の例は、“特殊事例”と言っても差支えないのかもしれない。民間企業である以上、事業採算を重視するのは当然であり、会社の固定資産である支店の建物を非常に安価で賃貸するのは難しい。しかしもともと同社は、同地で住民コミュニティイベントを多く仕掛けていた経緯もあり、将来的なまちの価値の維持を目的に今回の取り組みに踏み切った。
一方で、単なるCSRにはとどまらない側面もある。「パレットコート七光台」の04年の分譲開始当時の販売価格と、現在の同地域内の築10年程度の中古戸建ての価格を比べると、ほぼ同水準。何もなかった地域が開発によって「まち」になり、地価が上昇したこともあるが、野田市内の条件の似た中古戸建ての価格と比べて1,000万円近く高い価格で売りに出ている事例もある。近隣住民の中にはパレットコート七光台内の物件を指定して中古住宅を探すユーザーも少なくない。
地域の価値向上は、その地域への人口流入増加や取扱単価の上昇など、間接的にその地域で展開する不動産会社に利益をもたらす可能性が高い。現在、こうした地域の価値を高める取り組みが、全国的に広がっている。一昔前、「売り逃げ」と揶揄された時代もあった不動産開発会社だが、もはやそのような時代ではない。七光台のような分譲後のコミュニティづくりへの取り組みは、今後の不動産会社と分譲後の地域との関係という課題への挑戦の意味でも、意義がある。(晋)
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