大人も子供も楽しめるコミュニティスペースを創出
JR「千葉」駅から徒歩9分ほどの所にある、約16haの面積を誇る「千葉公園」。ボート遊びやさまざまなスポーツも楽しめる、千葉市民の憩いの場である。この公園の道路を挟んだ向かい側の住宅地にあるもう一つの憩いの場が、「椿森コムナ」だ。千葉市に本社を置く(株)拓匠開発(千葉市中央区、代表取締役:工藤英之氏)が運営する、コミュニティスペースで、木材チップが敷き詰められた足に優しい敷地内には、2本の立派な木がそびえ、木の上にはツリーハウスが。敷地内にはキッチンカーが日替わりで出店し、飲食も楽しめるという場所である。
◆米国・ポートランド市をお手本にしたスペースづくり
敷地面積約650平方メートルの「椿森コムナ」がある場所は、元は同社が分譲目的で仕入れた土地だった。「千葉公園を借景にできる気持ちの良い土地で、敷地内には立派な銀杏と樫の木がそびえていた。この木を伐採してしまうのはあまりにももったいない…。そこで、2本の木を生かしたこの土地の活用法を、社内で模索したのです」(ブランド戦略部部長代理・湯浅里実氏)。
その方向性を探るために、担当となる社員一同で米国オレゴン州ポートランド市へ視察に出かけた。なぜポートランド市なのか。それは、アメリカの住みたいまちランキングで1位を取得している人気の地域であり、環境にも人にも優しいまちが形成されているとの評判を聞いたからだ。「ポートランド市は何が優れているのか、そしてこの場所をどのように活用していくべきかのヒントを得ることができるのではないか。そう考えたのです」(同氏)。
実際ポートランド市のまちを視察してみて、そのすばらしさに視察参加者一同が感動。さまざまな取り組みを吸収し、帰国。社内で話し合いを行なった結果、「この場所を、地域の人たちのコミュニティを育む場にしよう」と決定し、プランニングを進めていった。そうして着想からわずか6ヵ月。2015年10月31日にオープンしたのが「椿森コムナ」だ。
◆2つのツリーハウスを建設
木材チップが敷き詰められた敷地の入口にそびえる銀杏・樫の木。その上部には、ツリーハウスを備える。「ポートランドにはツリーハウスの“メッカ”のようなエリアがあり、多くの人が集い、楽しんでいた。当社にはツリーハウスの職人もいたことから、“これだ”と決断し、つくりました」(湯浅氏)。
木にかける負担を最低限にできる部材をオレゴン州で購入。そして木にはしごをかけることで、大人も子供も容易に上れるようにしている。木の下にはハンモックを吊り下げ、豊かな緑を感じながらリラックスして休める場所を設けている。都心部でツリーハウスを楽しめる場所はそうはない。まち中でツリーハウスを楽しめる、それだけでも十分貴重な場所だと思うが、ここの楽しみはそれだけではない。
敷地内には、キッチンカー出店用のエリアを整備。同社が運営する常設キッチンカー「バンビ」の他に、さまざまなキッチンカーが日替わりで出店する。複数のキッチンカーが入れ替わり出店することで、色々なメニューを楽しめるのも特色だ。これも、ポートランド市のまちからの着想。「ポートランドのまちにはキッチンカーが出店できるエリアが設けられていましたが、千葉ではそういう場所はほとんどない。そこで今回、キッチンカーに出店してもらえる場所を当初から確保しました。そうすることで、訪れる人の楽しみも増えますから」(同氏)。
◆子供も大人も楽しめるワークショップやイベントを用意
キッチンカーが出せる場所があっても、出店して商売として成り立たなければ、いずれ出店してもらえなくなってしまう。それは場所としての魅力が減少することにつながる。
そのため同社では、繰り返し足を運んでもらえる場所づくりにも力を注ぐ。それは、魅力的なソフトの提供だ。「椿森コムナ」を会場に、外部講師を招いてのワークショップを随時開催。「定期的に実施するものや、シーズンや時間帯によって行なうものなど色々ありますが、多くの人に参加してもらえる楽しいプログラムを、外部のパートナーの方と相談しながら企画・開催しています」(ブランド戦略部セールスプロモーション&PR課・工藤波香氏)。
内容は、ヨガや子供向けの工作、クッキーのアイシング教室やアウトドアクッキングなど、実にさまざま。
夜にはライトアップを施し、大人向けの雰囲気を創出。大人を対象としたイベントも企画し、仕事帰りのサラリーマン・OLにも足を運んでもらっている。「住宅街にあるので、周囲の居住者に音の面で迷惑をかけないよう、無声映画のイベントを実施するなど、配慮していますが、大変好評です」(同氏)。その他マルシェや出店などの物販イベントも企画・開催するなど、人を呼び込むための数々の仕掛けを用意している。
◆人材登用・育成にも好影響が
こうして、「椿森コムナ」のオープンから約1年半。リピーターも増え、人が集う場として定着してきた。
“面白い”“新しい”ことに挑戦する企業としての周知が進むことで、同社の人材獲得にも好影響が現れているという。特に女性の応募者が増加。前出・工藤氏は「椿森コムナ」に客として来場、「こんな面白いことをやっている会社で働きたい」と同社の門をたたき、入社したという。
「椿森コムナ」の運営代表者も、社内で公募。複数の立候補者の中から、『経営を一から学びたい』と手を挙げた入社2年目の社員が担当することに。オープンから1年、誰もが「彼は変わった、大きく成長した」というほどの変化を見せているという。
コミュニティの重要性が認識されるにつれ、“場”の提供は進んでいるように見えるが、実はそれだけではコミュニティは形成されず、その成否は、ソフト面での取り組みに依拠している。同社はそのソフト面での取り組みに力を注ぎ、そして取り組みの永続化のために利益を計上することの重要性を十分に認識し、取り組んでいるのが大きな特長だ。
「これからも“創意工夫”しながら、新しいことに取り組んでいきたいです」(湯浅氏)との力強い言葉に、「この場はこれからさらに魅力を増していくはず」との思いを強くした。(NO)