間取り可変を手軽に。長谷工「UGOCLO」
躯体の耐久性や快適性の向上、商品企画の充実などで、今や「永住」に充分耐えうる住まいとなった分譲マンションだが、ごく一部のマンションを除いては、いまだライフスタイルに合わせた「間取り可変」については対応が難しい。そうした中、マンションの間取りや収納を、「いつでも」「簡単に」変えることができるシステムを、マンション施工最大手の(株)長谷工コーポレーションが開発した。コスト競争力も高いこのシステムを紹介したい。
◆子供の成長に住まいを対応させる悩み
分譲マンションにおいて「ニーズは高いけれど、対応が難しいもの」の筆頭がライフスタイルに合わせた間取りの可変、である。新築時のメニューセレクトは、購入者の入居時のライフスタイルに合わせた1回きりのもの。間仕切り壁を増やしたり減らしたりするリフォームはもちろん可能だが、工事業者を入れてのリフォームは何かと手間だしお金もかかる。「絶対的広さ」に制約があるマンションは、部屋・収納の可変は一戸建てのように簡単にはいかないのだ。(一戸建てであれば、使わない部屋は放っておく、という贅沢もある)
この問題は、「子育て」に直面すると誰もが痛感する。子供ができる、子供が増える、子供が成長する、子供が巣立つといった節目節目で、間取りニーズもまた、目まぐるしく変化する。だから、多くのユーザーが、子育てイベントを機に住み替えを検討する。
とはいえ、せっかく気に入って買ったマンションなのだから、できることなら住み続けたいと考えるユーザーは多いだろうし、資金面から住み替えやリフォームが難しいユーザーも少なくない。こうしたユーザーに、ライフイベントに合わせた間取り変更が容易にできるマンションを、特別なユーザー負担なしで提供したいという考えから、長谷工が生み出したのが可動収納ユニット「UGOCLO(ウゴクロ)」だ。
「私自身のマンション生活を振り返ってみても、最も苦労したのが子供の成長に住まいをどう対応させていくか、だった。最初の子供が生まれた時は、ベビーベッドをどこに置くか?次の子供が生まれ、成長するにつれ、子供部屋をどうするか?部屋は広げられないから、二段ベッドを入れて対応したりと。こうした思いから、生活状況に応じ、部屋と収納の大きさを自由に変えられないかと考えた」と話すのは、「UGOCLO」の開発を主導した、同社執行役員エンジニアリング事業部長の定永好史氏。
◆可動収納2つで部屋と収納の広さが自由自在
「UGOCLO」は、ファミリー対応マンションのいわゆる「田の字プラン」(3LDK)のうち、玄関側に居室が2室、バルコニー側にリビングと居室が並んで配置される住戸を対象にしたもの。縦方向(玄関側←→バルコニー側)に連続する2つの居室の間仕切りを取り払い1つにつなげ、その間を縦方向のみ移動可能な同社開発の可動収納ユニット2つで仕切るというものだ。
可動収納自体は、目新しい「発明」ではなく、マンションでも数多くの採用事例はある。ただ、それらは重くて移動が大変、梁や天井高等の制約で可動範囲が狭い、コストが高いなどの欠点があり、部屋や収納を自在に可変するのは使い勝手が悪かった。
同社の可動収納は大きく3ブロックに分割されており、中心部分は通路としても使用できる。収納自体の容量は7.5立方メートル。この可動収納が、背中合わせに縦方向に二つ並ぶ。これにより、何が実現できるのか?
収納自体は、車輪と側面のローラーガイドにより縦方向を行ったり来たりするだけだ。しかし、2つのユニット収納を動かすことで、それぞれの部屋の広さを可動範囲で自由に決められる。それだけでなく、2つの収納が「バラバラに動く」ところが、UGOCLOのキモとなる。
2つの収納は、まったく間を開けずセットもできれば、バラバラにセットしてその間をウォークインクローゼットや小部屋にすることもできる。つまり、部屋の数や広さだけでなく、収納の広さも自在に(それこそmm単位で)変えることができるのが最大の特徴だ。
また同社は、バルコニー側の居室(リビングに隣接)をウォールドアとすることで、部屋の使い方に、さらなるバリエーションを持たせている。いくつかのパターンを図面で掲載してみた。収納2つとウォールドアだけで、これほどのパターンが生み出せることに驚くだろう。
「ライフスタイルの変化への対応はもちろんだが、女性でも簡単に動かせるので、パーティの時だけ、親が泊まりに来た時だけというように、必要な時に部屋の使い方を変えられるメリットもある」(定永氏)
◆「田の字プラン」にも発展の可能性
もちろん、現時点では課題もある。それは、新築物件にしか採用できないこと。
可動収納自体は、部屋幅や天井高への対応は難しくない。しかし、車輪とローラーガイドが天井と側面にぴったり沿うよう動く構造から、設計時から構造梁を壁に収め、火災報知器の高さや照明位置等も配慮する必要があるためだ。そのため、一気に採用物件を増やすことや採用住戸を増やすことは難しい(一般工法で1スパンだけ梁を収めるという対応もできるが、隣接スパンに梁が出ることになり逆に売りづらくなる)。
コストについては両論あると思う。前出の梁の埋め込みに伴う施工費増と、可動収納のコストを合わせた「UGOCLO」採用コストは、同社によると戸当たり30万円。「坪単価が300万円のマンションであれば、専有面積を0.1坪小さくすれば吸収できる。マンションが0.3平方メートル狭くなっても、それ以上に居室の有効率は高められる」(同氏)と、同社はユーザビリティの向上で相殺できると自信を持っている。単純に価格は高くなるが、ライフイベントに合わせて部屋をリフォームするコストを考えれば安いもの、というのは大方のユーザーの評価ではないか?ディベロッパーにとってもVE(Value Engineering)次第で採用できる範囲だろう。
UGOCLOは、同社の子会社である総合地所(株)が2017年11月にも分譲する「ルネ北綾瀬」(東京都足立区、総戸数58戸)や、「江戸川区東葛西9丁目計画」(総戸数439戸、新日鐵興和不動産(株)とのJV。販売時期未定)の一部住戸から導入。その他6物件で導入が検討されている。専有面積と間取りに制約がある都市部の小型物件や、郊外の一次取得者向け物件などを分譲予定の事業主に、ローコストでユーザーの多様なライフスタイルに対応するシステムとして提案していくという。
「可動収納自体は以前からあるものだが、部屋と収納をライフスタイルに合わせ変える提案は、収納の開発と設計・施工をグループで手掛けているからこそできるもの。事業主にアピールしていく」(同氏)
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「田の字プラン」は、コスト優先、ユーザー軽視の間取りプランとして評判が悪かった。だが、逆に言えば、ユーザーの望む使い勝手さえあれば、最も安価にマンションを提供できる、VEを突き詰めた究極の間取りともいえる。事業用地や建築費の高騰で、マンションをリーズナブルに供給できる環境が今後も望めない中、できる限りを工夫を凝らして「田の字プラン」を発展させていくこともまた、マンションディベロッパーの良心だと思うがどうだろうか?(J)