記者の目 / 仲介・管理

2017/10/5

重説書面作成を「革新」する

「職人技」から「集合知」へ、東急リバブルの挑戦

 宅地建物取引士(以下、取引士)の業務のハイライトともいえるのが、「重要事項説明書」の作成だ。取引士の持てる知識と経験を総動員して物件を調査し、その特性やリスクを余すところなく報告する重要事項説明(以下、「重説」)は、その取引士の力量がストレートに反映されるが、その作業は「属人的」かつ「職人技」的であるため一定レベル以上の精度の向上は難しく、それ故に、常に取引トラブルの原因であり続けてきた。こうした重説作成のあり方に「革新」をもたらそうと、東急リバブル(株)が新たな業務フローを導入した。(月刊不動産流通17年11月号・ココに注目!!「ITを活用した重説書面作成・調査業務」も参照ください)

 ◆「属人的能力」に委ねられる重説作成

 改めて説明しておくと、「重要事項説明書」とは、不動産売買・賃貸契約の際に重要な事項について調査し記載したもの。「重要な事項」とは、その不動産の権利関係や法令上の制限、建物や周辺環境など不動産の特性、公租公課、契約付帯条件など多岐にわたる。取引士は、契約に当たり、取引当事者に重説書面を交付しその内容を説明する義務がある。このプロセスこそ、契約を円滑に終わらせるための根幹であり、取引士の業務のハイライトでもある。

 ところが、半世紀を超える取引士の歴史の中で、重説書面のつくり方というのは、ほとんど変わってこなかった。担当する取引士が事前準備を行なったうえで物件現地へ赴き、写真撮影や土地建物・道路幅員等の計測や、近隣状況を調査。役所で法令関係や下水道・消防関係の調査を行なう。これらの調査をまとめあげて、最終的な重説書面として仕上げる。この流れは、大手・中小問わずほぼ同じである。

 問題なのは、調査から作成に至るフローが、すべてひとりの取引士の「属人的能力」に委ねられている点だ。そのため、精度や完成度は取引士のスキルによりばらつきがある。数多くの取引経験を重ねることで説明書の作成スキルは上がっていくが、どんなスーパー取引士でも「うっかりミス」はある。他のスタッフによるチェック・ダブルチェックを課している企業も多いが、当事者でなければわからない誤りもある。ミスが出れば、契約スケジュールも再調整が必要となる。さらに万が一、取引後に説明書のミスが発覚すれば、「誤った重説をした」ということで業法違反に問われ、その企業にとっても取引士にとっても致命傷となる。

 そして、最初から最後まで一人で行なうゆえに、「時間」がかかる。事前調査で1日、現地調査で1日、作成に1日、チェックと修正に1日2日と順調にこなしても1週間弱。遠方の物件であれば出張になり、チェック漏れなどあれば再調査も必要になる。その間取引士は重説作成にかかりきりになる。その戦力損失や経済損失は企業にとってバカにならない。

 こうした重説作成フローを見直すことで、不動産仲介取引にイノベーションを起こそうとしているのが、東急リバブルだ。

 ◆チームの知見集積し、精度高め作成時間も短縮

チーム制による重要事項説明書作成は、
まず事前に入手した資料や調査済みの情報を基にしたミーティングから始まる

 同社でホールセール取引を専門に取り扱うソリューション事業本部は17年4月、売買仲介に係る重要事項説明書作成に、専門チームによるITを活用した新たな業務フローを導入した。

 同本部では、同一クライアントから数十件単位の仲介を依頼される「バルク取引」をはじめ、全国各地の多種多様なアセットを取り扱っており、年間1,000件を超える重説書面の作成に追われている。そこで、業務の効率化と調査精度の向上を目的に、クライアントと折衝する営業スタッフと、物件調査と書面作成を行なうスタッフとを分け、専門チームによる書面作成の分業化を進めてきた。しかし、書面作成にあたっては、これまで通り担当者が一人で物件調査から作成までを行なっていたため、作成までに平均6~7日を要し、成果物のチェック体制の複層化を進めても、精度向上には限界があった。また、同部署で扱うアセットは多種多様であり、関連法規も多岐にわたることから、それを一人の宅建士が完璧に覚えるのは難しい。

 「書面作成を一人で担うスタッフは大変な重圧がかかり、どうしても事故は防ぎきれない。実際、この業界では重説に係るトラブルは数十年にわたりまったく減っておらず、ある種の職人的作業である書面作成手法も変化がなかった。こうした状況を打破したかった」と振り返るのは、今回の業務フロー見直しを主導した、同社ソリューション事業本部審査部長の橋本明浩氏だ。

 書面作成のブレイクスルーに用いたのは、「ICTツール」による効率化と、説明書作成を担う審査部インスペクショングループの再編成だ。16年春から新たなフローの検討を開始し、1年がかりで完成させた。

 リバブル版重説書面作成フローの特長は、一言でいうと「職人技」から「集合知」への移行。つまり個人で完璧を目指すのではなく、グループ全体で求められるレベルに到達させるという考えだ。「これまでより良い重説書面を作るため個々のスタッフのスキルを引き上げてきたが、それぞれ得意分野は異なる。そうした知見をまとめ上げることで、より良い説明書が作れるのではと考えた」(橋本氏)。

 まず、インスペクショングループのスタッフ23名を、3~4名でチーム編成。1つの説明書をチームで作成する体制を構築。事前に入手可能な情報を使い、チームでミーティングを始めることからスタートし、机上のプレ調査から現地調査、説明書作成とダブルチェックまでをひとつのチームで担う。複数スタッフの知見を取り込むことによる綿密な現地調査の実現と、単独作業によるヒューマンエラー排除により、ベストの説明書を作り上げる。

◆最新ICT機器使い現地調査も複数の目で

現地調査の様子。調査スタッフは、スマートフォン等を使い、
現地の様子をライブ映像として本部に配信する
現地からのライブ映像をグループ全員でチェックしていく。
送られてくる映像は高解像であり、
現地スタッフが気づかないような点にまで複数の目で確認する

 とはいえ、現地調査にまでチーム全体で行っていたのでは、効率も悪ければコストもかかる。そこで、IT機器の出番となる。東京・丸の内の同本部オフィスに、説明書作成用のPCや高精度モニターなどを集約した「書面作成ブース」を設置。現地調査を任されたスタッフは、高精度のカメラやブーススタッフと通信できるタブレット端末を携行し、調査のライブ映像をブースへリアルタイムで送信する。その映像に対し、ブースのスタッフが適時質問や指摘をしながら調査を進め、その結果をブースのPCで説明書の文言に反映させていく。

 現地スタッフが携行するカメラは相当高解像で、ブーススタッフは、建物の壁面の状態や看板の文字等まで読み取れるという。ブースと現地という離れた場所にいながら、同じ目線で、共同作業で説明書を仕上げていくのが、このシステムの肝となる。これにより、調査精度は向上し、品質も均一化された。

 また、遠隔調査と説明書作成とを同時に進行させることで、出張に係るタイムロスをなくすことができた。同一県内や近隣複数物件の現地調査は、スケジュールを組んで集中して実施。説明書作成にかかる時間は従来比30~40%削減された。「これまで作成した説明書では、6~7日の作成日数を、最大4日まで短縮させる実績をあげています」(同氏)。作成時間の短縮は、重説作成のコストダウンと、生み出された時間を他の仕事に充てるなどスタッフの労働生産性向上に直結する。

送られてきた情報をもとに、本部で説明書作成を進めていく。
調査と作成とを併行して進めることで、作成時間を大幅に短縮できた

◆◆◆

 同社の説明書作成フローは、まだまだ進化の途上だ。ICT機器の精度が高まれば、より詳細な調査をもっと短時間でできる可能性はある。また、説明書作成だけでなく、「IT重説」や「電子契約」を同時採用することで、商談から契約までの時間や場所の制約から解放されることになる。そこまで行きつけば、まさしく不動産流通業の「革新」となろう。

 「今後も、チームの知を集積することで、より良い重説としながら、現地調査スタッフの負担も軽減し、効率化によって生み出された時間を顧客とのコミュニケーションに充てていきたい」(同氏)。(J)

【関連ニュース】
リバブル、ITで重説作成を変革(2017/6/22)

【関連記事】
月刊不動産流通17年11月号:ココに注目!!「ITを活用した重説書面作成・調査業務」

この記事の用語

重要事項説明書

宅地建物取引業務における重要事項説明に当たって、取引の相手となる当事者に対して交付して説明しなけばならない書面をいう(「重要事項説明」についての詳細は当該用語を参照)。 重要事項説明書には説明を要す...

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