多くのIoT(Internet of Things:モノのインターネット)機器が開発され、住宅にもIoT機器が見られるようになった。しかし、現状はそれぞれの機器が単体で完結している状況。そこで今、その先を見据え、住宅内で個々のIoT機器を連携させた“コネクティッドホーム”実現への取り組みが始まっている。 そうした取り組みのひとつとして、6月に横浜市が(株)NTTドコモ、and factory(株)と共同で開始した「未来の家プロジェクト」を取材した。 (月刊不動産流通17年9月号・流通フラッシュも参照下さい)
◆仕様の共通化や業界を越えた協業が始まっている
家電や防犯設備、各種モバイル端末など、さまざまな機器をインターネットを通じて連携させたコネクティッドホームは、スマートフォンでの一括操作や外出先からの遠隔操作を可能にすることで居住者の利便性を向上。各機器を通じてヘルスケアやセキュリティに関わるさまざまなデータを集約させることで、それをもとにした新たなサービス提供を可能にする。その実現には、実際に住宅内でIoT機器を複数使用する場合の仕様の共通化、統一化といったハード・ソフト面での連携技術開発、各機器の命令の優先順位といったセキュリテイ面での課題解決、そして業界を越えた産業のつながりなどが必要になる。
「未来の家プロジェクト」では、横浜市が住宅メーカーやIoT機器メーカーなどの横浜市内の中小企業へ協業を呼びかけ、実証実験の場を提供。ドコモが各機器を一元的に管理、制御可能な技術(デバイスWebAPI)を提供し、and factoryは、その技術を活用して、居住者がIoT機器を一括で管理・調節できるアプリを開発する。なお、同プロジェクトは、横浜市が17年4月に、IoT等を活用したビジネス創出に向けた交流・連携、プロジェクト推進、人材育成等の場として立ち上げた取り組み「I・TOP横浜(IoTオープンイノベーション・パートナーズ)」内のプロジェクトだ。
◆さまざまな環境で実験、将来的には独居高齢者の生活支援に
実証実験では、トレーラーハウスを利用した「IoTスマートホーム」(ドコモ提供)に各IoT家電やセンサーなどを実装。
現在設置しているのは、消費電力値が分かる「ワットチェッカー」(コンセントに設置)、部屋の気温湿度、騒音レベル、気圧、CO2濃度などを測定する「空気センサー」などのほか、生活動線に合わせて現在と前日の体重(洗面台前の床に埋め込み型で設置した体重計で測定)や睡眠解析データ、天気などの情報を可視化する「スマートミラー」(洗面台に配置)、玄関ドア、冷蔵庫の扉などのドア開閉回数を数値化・可視化する「開閉センサー」、敷布団の下に設置し、睡眠の深さや呼吸等を収集、解析する「睡眠計」、食事を記録し、栄養素を解析する「食事解析カメラ(スマートフォンで撮影、アプリを通じて分析)」など。現段階では「健康」をテーマに機器を設置しているが、実験のテーマには柔軟性を持たせており、今後は参加企業の提案に合わせて設置機器を拡大していく予定だ。
17年秋を目途に実際に居住者が生活した上での実証実験を開始する計画で、これらの機器・センサーから送られる居住者の生活状態などのデータをクラウド上に蓄積、解析することで、“生活状態”や“快適さ”について評価・検討を行なっていく。
さらに都市部や郊外、田舎など、住んでいる環境が違えば、求める快適さも変化するとの考えから、移動可能なトレーラーハウスという特性を生かし、横浜市を皮切りに全国さまざまな場所での実証実験を行なっていく。実施期間は約2年間を予定し、1回の実験に1週間程度を想定している。将来的には、住宅が居住者のリラックス度や活動量など生活状態を把握し、AI技術に基づき居住者の状態に合わせた快適な室内環境へ自動調節する“未来の家”の実現を目指す。同時に、居住者がスマートフォンで生活状態を把握でき、カーテンや鍵(スマートロック)の開閉、TV、エアコン、空気清浄器などの一括制御、照明色のコントロールなどの操作を可能にするアプリ開発等により、ユーザーの利便性向上も目指す。
横浜市は、市民の高齢化による高齢単身者世帯の増加を見据え、今回のプロジェクトを高齢者のひとり暮らし対策や災害対応策として役立てたい考えだ。住み替えより住み慣れた住宅での独居を選ぶ人が多いと予測できることから、既存住宅に設置できる簡易・低コストなIoT機器・制御技術の開発をサポートし、見守りも兼ねた高齢者の生活支援、より快適に暮らせる環境づくりを目指していく。
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住宅自体が進化するのは限りがあるが、IoT機器を組み合わせることで、新たなサービス提供の可能性が広がる。そうしたサービスが受け入れられるためには、今後、“快適性”が課題の一つになると考えられる。闇雲にIoT機器を導入するだけでは快適性をもたらすはずのセンサーなどが一転、窮屈な「見張り」になったり、疲れて帰宅した時などには「わずらわしいもの」になりかねないからだ。
今回のプロジェクトでも、多くのIoT機器に囲まれた生活で“快適”と感じる度合を見極めることが課題の一つだという。そのため、「未来の家」では生活する中で自然と気づきを与えることを意識し生活動線に合わせて機器を設置、特別な操作の必要がない自動制御を目標としている。
同プロジェクトに限らず、IoT機器の導入が進めば進むほど、“設置機器が目に入らない”、“自動制御”といった、居住者に意識させないデザインや設置方法、操作性なども普及のカギとなっていくのかもしれない。(meo)
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住宅等におけるIoT活用をテーマにセミナー/横浜市(2017/9/13)
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月刊不動産流通17年9月号の流通フラッシュでも取材しています。ご参照ください。