総合地所「ルネテラス船橋」の場合
分譲住宅市場における「駅距離」は、ここ数年でますます重要なファクターになってきた。マンションでは駅徒歩8分、戸建住宅でも徒歩15分を上回ると、目に見えて売れ行きは鈍る。それだけに、そうした立地での分譲事業では、相当の創意工夫が必要だ。今回紹介する総合地所(株)の分譲戸建住宅「ルネテラス船橋」(千葉県船橋市、総戸数34戸)は、その立地ハンデ、環境ハンデを覆す入魂のまちづくりが目を引く。
◆駅から17分。マンションでは勝負にならない立地
同物件は、JR総武本線「船橋」駅徒歩17分、京成本線「京成船橋」駅徒歩16分、JR総武本線・東京メトロ東西線「西船橋」駅バス7分バス停徒歩6分に位置。約5,300平方メートルの敷地は、日本道路公団の社宅跡地だ。
船橋駅・西船橋駅はともに総武線随一の繁華性を誇るが、いかんせん駅までのアクセスは良好とはいいがたい。船橋駅へのアプローチも、ごちゃごちゃした再開発予定地に細い裏通り、交通量の多い道路、運送会社の倉庫街などお世辞にも快適ではない。また、同物件の敷地自体も、南側が高速道路、北側は大型マンション、東側が築古の市営住宅と決して整ったまち並みではない。しかも、かなりの変形地である。
同社が道路公団から土地を取得したのは、2015年春。開発計画を練ったものの、当然ながら駅徒歩17分のマンションでは勝負にならないと、早々に戸建住宅の開発を計画。しかし、同社は「白岡ニュータウン」での四半世紀に及ぶ大規模ニュータウン開発(約1,100戸)など一から始める戸建住宅地の実績はあるが、限られた面積の中での造り込みが要求される都市型戸建の開発は経験がなかった。
「当社は、戸建住宅の開発では後発組。お客さまの印象に残るものをつくりたかった。他社の商品を視察し、売れている住宅の共通項をイメージ化した」と話すのは、戸建て事業一筋、今回の物件も担当した総合地所分譲第一事業部戸建営業部担当部長の入倉康治氏。
首都圏の人気団地をいくつも視察した入倉氏は「売れている団地、人気の団地の共通項を見出した」。そのカギとは「提供公園の配置の仕方」と「宅地内道路の入れ方」、つまりまち並みを決定づけるランドスケープデザインである。
そこで同社は、その道のプロを招へいし、まちづくりの総合監修を任せた。建物デザイン、配棟はもちろん、外構計画や植栽計画などに工夫を凝らした数多のまちづくりでグッドデザイン賞を受賞している建設コンサルタント・HIRAMEKI代表の重松 剛氏だ。
◆区画数を減らしてまで凝りに凝ったランドプラン
同物件のパンフレットをめくると、そこには2枚の全体計画図が載っている。一つは、同社が当初計画した計画図。もう一つが重松氏の思想を反映させた、新しい計画図だ。当初計画図は、よく言えば「整然」、悪く言えば「ありきたり」に建物が立ち並ぶ、何の変哲もない住宅地だ。その計画図と比べ、重松氏の計画図は果たして同じ敷地なのかと見まごうほど、独特のランドプランとなっている。
メインストリートは緩やかな半弧を描き、その西北側にはクルドザック(行き止まり)を取り囲んだまち並みを置くなど、全体を4つに緩やかにゾーニング。敷地形状と建物形状は全戸微妙に異なっており、かつオフセットさせることでまち並みにリズムを生んでいる。最大の特長は、提供公園の位置。通常であれば、敷地で最も条件の悪い(宅地として使えない)端地が充てられることが多いが、重松氏はメインストリートに面した住宅の南側という最高の位置に持ってきた。
こうした造り込みをすれば、当然ながら計画戸数を減らさざるを得ない。分譲戸数は当初計画より2戸減の34戸となった。だが、パンフレットでは「区画数を減らしてでも、つくりたかった街」と、まちづくりへの想い入れを表現。この規模の開発で、2戸分の収益を度外視するというのは、かなりの勇気がいる。しかも、道路にはインターロッキングが施され、電線は地中化までしている。
重松氏は、このまちづくりへの想いを、こうまとめる。「シンプルで住み心地を重要視したまち並みを目指した。建物の向きや提供公園の配置などを工夫して住戸から見える景色に変化を持たせ、4つのまち並みでデザインを変えながら、それぞれに価値観を共有し、居住者が楽しんで暮らせるまちを目指した」。
通常は人気が出ない「敷地延長住戸」も、アプローチの幅を3m以上設け、提供公園に接することで抜群の借景と住環境を確保。その他の住戸も、建物の向きや窓の位置をわずかにずらしたり、棟間に植樹するなどして、借景に特徴をもたせた。
各住戸の敷地は低いフェンスで仕切られるが、その上を生垣で覆うなどしてオープン外構のように魅せる。敷地全体で200本を超える樹木が植えられるが、「緑いっぱいのまち並みが好きな人もいれば、そうでない人もいる」(重松氏)と、ゾーンごとにまち並みを統一させながら、緑化や外構のバランスをも変化させた。メインストリートに面するゾーンは、玄関周りをロックガーデンとし、経年で美しく変化するようにしている。
◆人とまちとのつながり意識した間取り
建物は2×4工法2階建て、土地面積110~155平方メートル、建物面積97~112平方メートル。4LDK。まち並みのゾーニングや借景の共有など、まち全体がコミュニティを意識しているのと同様に、間取りプランも近隣住民や家族同士の「コミュニティ」をテーマにしている。
家族の息吹が感じられる吹き抜けプラン、リビングに設けた子供の学習スペース「ファミリースタディ」、家庭菜園スペース、家族の団らんを意識したルーフバルコニー、ホームパーティも可能なリビング・キッチン独立プランなど。もっとも、特徴的なのは、玄関とリビングとをつなぐ「土間スペース」のあるプランだ。土間は住民の趣味や同じ趣味を持つ住民同士のコミュニティスペースを意識したものだが「永住を意識したとき、退職後どうやってまちとつながりを持つかが、これから大きなテーマとなる。土間スペースは、趣味の教室を開くなどして、居住者がまちとつながる空間となる」(重松氏)。
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さて、同住戸の販売価格は、3,900万円台~5,000万円台。最多価格帯は4,600万円台。9月に発売された先行建設住戸10戸は、すでに完売している。準近郊部ですら高騰著しいマンションと比較すると、アクセス難があるとはいえ、リーズナブルさが際立ってくる。何より、まち並みの付加価値は、この物件の何よりも替えがたい魅力となろう。逆に言えば、ここまで確固たる意思を持って造りこまないと、これからの分譲住宅市場を勝ち残ることは難しいということでもある(J)
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