記者の目 / 開発・分譲

2005/8/1

「都市再生」にかける三井不動産の意気込み

驚異的スピードで竣工する数々のプロジェクト

 先月29日、日本橋三井本館に隣接する超高層複合ビル「日本橋三井タワー」を竣工させた三井不動産(株)。昨年1月竣工の「COREDO日本橋」と並び、日本橋エリア活性化の起爆剤として期待されている。同社は、このほかにも銀座、八重洲、六本木、芝浦といったエリアでいくつものプロジェクトを抱え、「都市再生」に真正面から取り組んでいる。その意気込みは、計りしれないものがある。

7月29日に竣工を迎えた「日本橋三井タワー」
7月29日に竣工を迎えた「日本橋三井タワー」
「COREDO日本橋」
「COREDO日本橋」
「交詢ビル」
「交詢ビル」
「ZOE(ゾーエ)銀座」
「ZOE(ゾーエ)銀座」
「芝浦アイランドプロジェクト」全景(完成イメージ)
「芝浦アイランドプロジェクト」全景(完成イメージ)
「東京ミッドタウンプロジェクト」完成予想パース
「東京ミッドタウンプロジェクト」完成予想パース

 「このプロジェクトは、昨年の“COREDO”のオープンに続いての開発となる。ビジネスや観光、さらに新しいニーズを生み出し、この日本橋という伝統ある街にさらに新しい魅力を生む。既成市街地の活性化のモデルケースとなるはずだ。今後は、隣接する三井第三別館周辺の開発も進め、日本橋と隣接する八重洲エリアでの開発も進めていく。八重洲と日本橋、面的な活性化が期待できる」--。
 「日本橋三井タワー」竣工の記者会見で、代表取締役副社長の大室康一氏は、“日本橋”とそれに続く“八重洲”の活性化について、こう意気込みを語った。また、同社日本橋街づくり推進部長の中川俊広氏も「この日本橋室町から汐留までの中央通りを、東京における重要な都市基軸ととらえていく」と語った。
 「日本橋三井タワー」は、重要文化財である三井本館を保存しながら、これまでの日本橋にはありえなかった高機能を持ったオフィスを提供、最高級ホテル「マンダリン・オリエンタルホテル」誘致による観光需要等の創出、そして複合ビルディングを核とした、これまでの日本橋に無かった新しいコミュニティの創出などをめざしたプロジェクトだ。

 三井グループのお膝元でもある日本橋周辺は、老舗の商店や飲食店の集積はあったものの、それらが有機的に機能しコミュニティを形成していたことはない。どちらかといえば、古くからあるオフィス街という趣きのほうが強く、老若男女で終日賑う街とは言い難かった。「COREDO日本橋」の建設地にあった東急百貨店が閉店の憂き目にあったのも、エリア全体が沈静化していたことと無関係ではない。その隣の八重洲も、完全なオフィス街、サラリーマンの街だ(記者は以前、八重洲にある某企業の役員から“日曜日銀座に行くときには、会社の前に車を停めていく”と聞いてびっくりしたことがある。日曜日の八重洲は、それほどのゴーストタウンになるということ)。この2つの街に続く銀座も、かつての賑わいからは程遠い状況だった。これらの街と長い間付き合ってきた三井不動産としても、忸怩たる思いがあっただろう。

 バブル崩壊後の混乱期を乗り越え、三井不動産がこれら都心部の活性化に乗り出したのは、この10年あまりのこと。なかでも、この数年の動きは“凄まじい”と表現するのがぴったりくる。
 東急電鉄とともに、新たな日本橋の顔をめざして立ち上げた「日本橋一丁目ビルディング」プロジェクトを、大型複合ビル「COREDO日本橋」としてオープン。これまで日本橋とは縁遠かった若年層を呼び込んだ。さらに「日本橋三井タワー」の完成で、エリア内に新たなコミュニティを創出していく。

 銀座では昨年、財団法人交詢社のビルを建て替え、全国からファッション・飲食の老舗を集めた商業施設「交詢ビル」として再生。銀座3丁目でも今年、都心型商業施設「ZOE銀座」をオープンした。八重洲では、JR東日本ほか5社共同で「東京駅八重洲口開発」に着手。八重洲口駅前広場を挟んで南北に、高機能オフィスと商業施設を備えた複合型超高層ツインタワーを建設する。
 さらに、東京駅周辺エリアを飛び出せば、汐留再開発の中心地「汐留シティセンター」のオープン。その先の芝浦では、人口400人の人工島をわずか5年で1万人が暮らし、ありとあらゆる施設が整った街にする「芝浦アイランドプロジェクト」が、07年に完了。さらに、港区六本木では、約7haに及ぶ防衛庁跡地に商業・ホテル・住宅を複合開発する「東京ミッドタウンプロジェクト」が、これも07年に完了する。どのプロジェクトも、行政や地方自治体をうまく巻き込み、官公によるインフラや景観整備をリンクさせているほか、民間単独では考えられない驚異的なスピードで完成させている。

 同社が都市再生のキーワードとしているもの、それは「残しながら、蘇らせながら、創っていく」(中川氏)。原則論でいえば、ディベロッパーにとって「1からモノを作る」ことが一番簡単だ(要する時間やコストは別にしての話)。都市にまつわる「歴史」や「伝統」「文化」を守っていくことがいかに重労働かは、日本の戦後の街づくりを見ればわかる。だが、三井不動産は「残し」「蘇らせる」ことにこだわっている。
 重要文化財と最新鋭ビルとをわざわざ決着し、そこに国宝級の美術品を調度する美術館を設けた「日本橋三井タワー」。鉄道発祥の地「旧新橋駅」を蘇らせた「汐留シティセンター」、建て替え前の正面玄関をファサードとして保存した「交詢ビル」。同社がこんな手の込んだことをするのは「既存の街が持つ豊かなコミュニティは、なかなか新しいまちでは創れるものではない」(中川氏)からだ。既存の街が持っていたコミュニティに新たな機能を加えることで起こる化学反応が、さらなる新しいコミュニティを生み出すからだ。

 スクラップ&ビルドの街づくりは、それまでその街が培ってきた歴史や文化を全否定する。デベロッパーにとって、それは自ら行なってきたことへの自己否定でもある。都市再生とは、「無」から「有」を生み出してきたディベロッパーが、「有」から「優」を生み出すための、新たなチャレンジに他ならない。(J)

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