「汐留シオサイト」最後の大規模プロジェクトが完了
今から約5年半前の2002年7月にまち開きした「汐留シオサイト」(汐留地区土地区画整理事業)。「汐留ビル(ウインズ汐留)」の竣工を皮切りに次々と開発が進められてきた同地区最後の大規模プロジェクト「汐留ビルディング」(東京都港区)が、07年12月14日に竣工した。「汐留シオサイト」に新たなシンボルとして誕生した「汐留ビルディング」は、果たしてどんな顔を見せてくれるのだろうか?。1月17日に行なわれた見学会の様子をレポートする。
「汐留シオサイト」南の玄関口のランドマーク
“汐留”は、さまざまな歴史を刻んできたまちだ。江戸時代には武家屋敷街として栄え、明治時代には日本初の鉄道駅(新橋駅)として活気を呈する。しかし、大正時代に東京駅が開設されると、汐留は貨物専用駅となり、その汐留駅も1986年に廃止となり、歴史の表舞台からは姿を消すことになる。しかし、旧汐留貨物駅跡地から浜松町駅に至る31haに及ぶ広大なエリアは再開発され、「汐留シオサイト」として新しく生まれ変わった。
国道15号線と首都高速環状線、2つの高架に挟まれた南北に細長い「汐留シオサイト」。北側の新橋駅周辺には、近未来的なガラスのファサードを持つビル群、格子をモチーフにしたビル群の2つのエリアに区分されており、中間に位置する住宅街区には、重厚感のあるファサードデザインを持つマンションが立ち並ぶ。そして、同エリアの南端に位置するのが、新たにオープンした「汐留ビルディング」だ。
同ビルは、JR「浜松町」駅前というランドマークを意識した工夫が随所に見られる。
まず目に付くのは緑の豊かさ。エントランス前の広場やビルの周辺には多くの緑が目立ち、都会のオアシスといった感がある。街路樹は、将来的に高く育てることを念頭に置いて植栽され、きちんと根をはることができるような土壌づくりをめざしたという。また、敷地面積のうち6割を確保した公開空地には種々の中低木も植栽され、年間を通して四季折々の花が楽しめるようになっている。広場も、さまざまなイベントを催すことができるよう設計を工夫したとか。近未来的な建物の多い北側の都会的な雰囲気に比べると、この南側はどこかホッとする、それでいて何かワクワクさせてくれるような期待感のある、そんな気持ちにさせてくれるエリアだ。
外観も、他エリアの建物とはひと味違っている。同ビルの計画地は、徳川家と縁が深いことで有名な「増上寺」がある旧門前町から竹芝埠頭までの間をつなぐ、歴史ある通りに面したエリア。また、芝離宮・浜離宮といった庭園が残っており、汐留という近代的なまちの中心にありながら、緑豊かな自然を愛でることのできる立地環境にある。
それ故に、プロジェクトを共同で手がけてきた東急不動産(株)と三菱地所(株)は周囲との調和を重視。外装デザインには日本の伝統的なモチーフである格子戸、障子、行灯といったモチーフを採り入れた。フラットと凹凸で面としての表情を、透明と半透明で色としての表情を、それぞれガラスや金属で表現。こうして、近代的なビルに日本古来の建築要素が加わったことで、「汐留ビルディング」はユニークさとひと際目立つ存在感をアピールしている。
新しい都市開発のモデルとして注目
見学会は、最上階24階のオフィスフロアからスタートした。足を踏み入れると、圧巻の無柱空間に驚く。天井高3.2m、1,000坪を超えるオフィスは、都心最大級のスケールだとか。実に広々とした開放感があり、中央には内部階段設置可能スペースも設けられるといった工夫がなされていた。
スケールの大きさにも圧倒されたが、それ以上に心を奪われたのは窓から見える景色の素晴らしさ。東京湾に浮かぶレインボーブリッジ、眼下に広がる浜離宮と芝離宮の緑豊かな景色を見ていると、ここはオフィスではなく、展望台にいるかのような錯覚に陥る。東京タワーも間近に見え、夜には昼間とは違った夜景も楽しめそうだ。ここで働く人たちにとって、外の景色を眺める時間は、仕事の合間の癒しのひと時になるに違いない。
もちろん、セキュリティー面も万全だ。不測の事態に備え、メインの送電線にトラブルが発生してもサブ系統の送電線から受電可能というループ受電を採用。いざという時にも仕事に支障をきたさなくて済む。
また、建築的工夫による負荷の抑制と設備的省エネルギー手法を採用し、運用時のエネルギー費の削減を図っている。他にも、排熱源を地表への影響が少ない屋上に設置したり、水冷マルチパッケージ空調機で冬季冷房熱を回収するなど、ビルの随所でエコを意識。雨水や冷却水等をトイレの洗浄水を再利用、水資源の有効利用も図っている。環境に対する配慮や工夫は、環境問題がクローズアップされている現代にマッチした取り組みだといえる。
3階フロアは、東京都の「新しい都市づくりのための都市開発諸制度活用方針」に基づく産業支援施設。小規模事業者のオフィスニーズに対応する目的で、新たな産業・ビジネスの育成、支援を図るためのスペースだ。
「汐留シオサイト」プロジェクトの特徴は、官民協働型のまちづくりにある。官民が都市開発の良きパートナーとして一体となり開発を進めるという、都市開発の新しいモデルをつくりあげてきた。この3階フロアは、まさに官民がタッグを組んで実現した施設なのだ。
官民がタッグを組んで実現したサービスオフィス
一方、同階のプライベートオフィスゾーンには、サービスオフィスの経営・運営を行なってるオフィシア(株)(東京都港区、代表取締役社長:岡嶋伸仁氏)が全81室のサービスオフィス「オフィシア汐留」をオープンした。同社のサービスオフィス事業の第1号店となるもので、オフィスのほかに、共用施設のカフェラウンジ・応接室、タイムシェアで利用が可能なサテライトデスク等を構え、フロア全体の3分の2を占める。
1~2名用のオフィスは、重厚な家具と革張りのハイバックチェアが備えられており、コンパクトながら高級感が漂う。高速ブロードバンド環境やIP電話システム等があらかじめ完備されているため、入居までの煩わしい作業を一切しなくて済み、即日業務を始めることができる。エントランスからオフィスまでには、最新鋭の非接触型ICカードを採用し、万全のセキュリティシステムも導入しているから安心して仕事に就ける。
同社が一番力を入れたのは、来客者をあたたかく迎えるためのレセプションとロビーだとか。訪れる人にくつろぎと安らぎを感じてもらえるよう、ビジネスライクではなく、心のこもったホテル並みの対応をめざしているという。ライブラリーを兼ね備えたカフェラウンジからも、同社の心配りが窺える。内装には木目調の素材を採用、ソファやロータイプのチェアを設置し、コーヒーや健康飲料なども用意している。ここでは、まさにホテルのカフェにいるようなリラックスしたオフタイムを過ごせそうだ。
最先端のIT設備を備えた会議室は、シックな内装と革張りのチェアが特徴の重厚感に溢れたスペース。一方、窓側に配置された開放的なミーティングルームは、活発な意見交換の場として活用できそうだ。応接室は、大切なお客さまへのおもてなしの場として、落ち着いた雰囲気を醸し出している。パブリックスペースは、用途や目的に応じてチョイスできるよう、じつにバラエティに富んだ構成となっていた。
機能的なプライベートオフィスと、リラックスできるパブリックスペースが両立したビジネス空間。気になるのは利用料だが、月額契約料は1~2名用で39万9,000円~、3~5名用で68万2,500~を設定している。基本サービスとして、来客者応対、郵便物・宅急便の受け取りや発送、新幹線・飛行機の予約等が含まれてはいるものの、「高い!」と感じてしまう方も少なくないだろう。
オフィシア・代表取締役社長の岡嶋伸仁氏は「確かに、周辺オフィスの相場と比べると決して安くはない。しかし、水道光熱費や時間内空調費などが含まれており、固定費が変動しませんし、人的サービスと最新オフィス機器の共用で人件費や設備費を削減できるというメリットもある。何より、最先端のオフィス機能とホテル並みのサービスに満足してもらえると自負している」と語っている。
官民一体型のこの施設、今後どのような成果をあげるのか、期待したい。
思わず立ち寄りたくなる「HAMASITE Gurume」
最後に訪れたのは、1・2階を占める商業ゾーン「HAMASITE Gurume(ハマサイト・グルメ)」。すでに15日より営業を開始しており、オープンした飲食店、コンビニエンスストアなどの15店舗は、ランチタイムに訪れる人々で活気に溢れていた。
ドイツ、イタリア、台湾、九州・沖縄料理など、各国の味が楽しめる店舗が軒を連ねている。来店客の胃袋と好奇心を満たしてくれるラインナップだが、どの店に入るか迷ってしまうところだ。
特に注目したいのは、韓国で大人気の「ハンマリ家」。地元グルメたちで行列が絶えないのだという。鶏を丸ごと1羽使った「ハンマリ鍋」が人気料理で、日本での出店は初となる。2月15日のオープンが待ち遠しい。
また「HAMASITE Gurume」では、ユニークなサービスも展開している。
「浜 松男」なるキャラクターの名刺を提示して「ハマさんからの紹介です」と店の人に言うと、ドリンクサービスやプライスオフサービスが受けられるのだとか。名刺は各店舗のレジ付近に置いてあるので、ランチタイムや会社帰りに立ち寄る機会の多い人は、ぜひともこのおトクな名刺を入手することをおススメしたい。
「HAMASITE Gurume」のめざすコンセプトは、「来街者がふと立ち寄りたくなるような開放的であたたかな空間の商業ゾーン」。じつは筆者、とある店の中から聞こえる威勢のいい掛け声と笑顔に惹かれ、つい足を運んでしまった。まさに「ふと立ち寄りたくなるような開放的であたたかな空間」を体験したというわけだ。
なお、今春には現在オープンしている店舗の他3店舗のレストラン、クリニック、薬局、コンタクトレンズショップがオープンする予定だという。
オフィスフロアは、満室での稼働と好スタートを切った。官民一体となって生み出された産業支援施設など、新しい都市開発のモデルとしても注目されている「汐留ビルディング」。果たして、近隣のオフィスワーカーや住民、ふらりと訪れた人たちの目にどう評価されるか気になるところだ。(I)