快適生活実現のため地道に努力する「技術研究所」
マンション施工棟数ナンバー1の(株)長谷工コーポレーション。以前、記者は「『良品廉価』長谷工マンションの秘密」と題し、プレゼンテーションスペース「LIPS」を紹介した。LIPSは、インフィルの快適性を高めるため、よりユーザーニーズにあった商品や仕様を提供する拠点だ。 今回は、マンションのハード(躯体)に関連する安全性や快適性を高めるための基礎研究を行なっている「長谷工コーポレーション技術研究所」(埼玉県越谷市)を紹介したい。同研究所では、より安全、安心、快適なマンション生活を実現するためのさまざまな技術が日夜実験・研究され、長期間にわたる検証に加え、コストパフォーマンスを高めたうえでユーザーに提供される。そのすべては、マンションのための技術研究であり、長谷工マンションの強みとなっている。
現在のトレンドは「省エネ」「ストック更新」
現在の「長谷工コーポレーション技術研究所」は、1998年、神奈川県厚木市から移転したもの。移転と同時に施設が大幅に増強され、(1)マンションで使用される建材や設備の熱環境や化学分析、温度・湿度の影響などを検証する「環境実験棟」、(2)建物の躯体のコンクリートや柱・梁の耐久性や耐震性などを実験する「材料・構造実験棟」、(3)最新技術を実際のマンション躯体に実装し、耐久性や施工実験を行なう「住宅性能試験棟」、(4)来場者へ研究テーマをプレゼンテーションする「技術展示場」などで構成される。敷地面積は約2,000坪、建物面積は約900坪。大手ゼネコンの実験施設としては至って小規模だが、マンションに特化した実験施設としては屈指の内容と規模を誇る。年間研究費は、10億円弱だ。
そこで研究されるテーマは、地道な基礎研究から最先端を行く技術開発までさまざまだが、時代時代のトレンドに合わせ、テーマも日夜変わっていく。直近では、今年4月に大規模なリニューアルを実施。「すでに、ディベロッパーの役員・企画担当者を中心に1,000名以上が見学に来ておられます」(同社常務執行役員・技術研究所所長・鹿倉克幸氏)。また、今秋からは長谷工グループが管理する既存マンションの管理組合役員なども招いていく。言うまでもなく、既存マンションの快適性を上げるための提案を紹介するためだ。
同研究所の研究テーマを、いくつか紹介していきたい。
現在、力を入れているテーマは、省エネルギー・省CO2、そして建物の長寿命化とストック更新技術に大別される。まず、省エネルギー・省CO2の代表格が、「太陽光発電」だ。
夜間でも使える「太陽光発電」の実現へ
太陽光発電パネルは、基本的な発電原理は同じだが、その素材や構成などにより「結晶型」「薄膜シリコン型」「多結晶薄膜型」などさまざまな種類に分類される。同研究所では、それらすべてについて、実際の発電パネルを研究所内に複数設置。マンションの屋上やバルコニーなどに設置した場合、どれだけの発電効率になるかのデータを取っており、新築マンションへの導入はもちろん、既築マンションへの設置の可能性も探っている。
太陽光発電により作られる電力は「直流」だ。家庭内の電力は「交流」であり、トランス(変電器)により変換するのだが、ここで発熱ロスが15%程度発生する。そこで同研究所では、太陽光発電された電力を蓄電池に蓄積。そのままLED照明などに利用するシステムを開発している。変換ロスをなくすだけでなく、夜間に自然エネルギーで作った電気を使うことができる画期的システムだ。
問題はコスト。電気を蓄積するためのリチウムイオン電池のコストは、まだ実用化できるレベルではないからだ(ハイブリッドカーや電気自動車の価格が高いことで理解できよう)。「電気自動車の普及で、リチウムイオン電池が量産化されれば、その余剰を回してもらう事が期待できます。早ければ、数年後には実用化のめどがつくと思います」(技術研究所第1研究開発室室長・橋本百樹氏)。
太陽光発電と相性の良いLED照明だが、光色や照射角度などに不自然さがあること、電球そのものの価格が高額だったことから普及がなかなか進まなかった。そこで同社は、住宅性能試験棟に複数の廊下、トイレを設置。白熱球、蛍光ランプ、LED照明をそれぞれ設置し、明るさや光色を比較できるようにした。そのうえで、その省エネルギー性をアピールし、ディベロッパーや管理組合に、マンション専有部・共用部への導入を勧めている。
可変性と遮音性に富むフローリング
建物の長寿命化と更新技術の分野で積極的にアピールしているのが「床先行二重床工法」だ。
すでに販売が始まっている同社の長期優良住宅で本格採用したもの。通常の二重床は、躯体に間仕切り壁を固定したあと、部屋毎に二重床を施工する「壁先行」工法だが、これだと間取り変更で壁を移動する場合、床を一から貼り直す必要がある。床先行工法なら壁を撤去したあと仕上げ材を補修するだけで済む。支持脚の数も従来の1.5倍に増やしたことと、下地材の厚みを増し制振ボードを追加したことで、遮音性も格段に向上している。
同研究所では、実際のマンションと同じ躯体を持つ「住宅性能試験棟」の一住戸に、同床を敷き詰め、各種データを取り続ける一方、来場者にその足触りや遮音性能を体感してもらっている。記者も体験したが、二重床特有の支持脚間の「たわみ」がなく、かっちりとした足触りだった。
実は記者は10年ほど前、この研究所を訪問し、防振ゴムをびっしり敷き詰めた遮音フローリングを取材したことがある。そのフローリングの遮音性能は一級品だったが(重量・軽量衝撃音ともほぼ完全にシャットアウトしていた。聞こえた音は、サッシュを通じて外から聞こえてきたものだった)、コストが高くて普及しなかった。今回の工法は、遮音性能こそ若干見劣りするが、すでに実用化されており、コスト面でも問題ない。住戸の可変性を大幅に改善でき、直床が主流の同社のマンションのレベルを一気に引き上げる期待が持てる。
このほかにも、可変性を備え、リフォームによる交換も容易なバルコニー手すり、サッシュや玄関の交換が容易にできるALC壁乾式工法、床を壊さずに排水管の更新ができる「HAM-J工法」、既存のサッシュ枠を使いサッシュをリフォームする「リサッシ」など、マンションの延命・更新に関するさまざまな技術が、試験棟をはじめ研究所の至るところで展示されている。それらは、いずれも性能・効果の実証はもちろんだが、コストパフォーマンスを高めたうえで現場にリリースされることで、長谷工のマンションの競争力を高めていくのだ。
技術の「見える化」でユーザーの信頼獲得せよ
同研究所では、躯体の耐久性試験、工事現場での省エネ・省CO2技術、シックハウス防止技術などが、長期間にわたり、地道に研究されている。それらすべてを紹介するスペースがないのが残念だが、研究所はディベロッパー関係者であれば見学が可能だというから(ライバルのゼネコン関係者にまで見学を許したというから、太っ腹である)、興味がある関係者はぜひ見学してほしい。
記者が望むのは、一般ユーザーへの公開だ。技術の「見える化」は、ユーザーの信頼獲得の大きなツールとなるはずだ。(J)
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