大京 「ライオンズ茅ヶ崎ザ・アイランズ」の場合
分譲マンション市場に明るさが戻ってきたと言われて久しいが、こと都心遠隔地や駅遠物件についてはまだまだ苦戦が目立つ。ユーザーの心を掴むにはそれなりの作り込みが必要だ。 そうしたなかで、予想を上回る販売実績をあげ続けているのが、(株)大京の「ライオンズ茅ヶ崎ザ・アイランズ」(神奈川県茅ケ崎市、総戸数828戸)。海好きのユーザーに絶対的なブランドイメージがある「湘南」を前面に押し出し、地元とコミュニティとの連携を強化。趣味に軸足を置いたリゾートライフを楽しめるマンションとして、差別化を図っている。
「見せかけのリゾート」は作らない
同物件は、JR東海道線「茅ヶ崎」駅徒歩14分のゴルフ練習場跡地に建設される、地上14階建て4棟と地上2階建ての共用棟で構成される大規模マンション。同社の単独事業としては過去最大のプロジェクトとなる。
建設地は、周辺に大規模商業施設が林立し利便性は高いものの、南側には工場が隣接しているほか、海とは駅を挟んで逆側の立地となり、海を日常に感じるような直接的なリゾート感には乏しい。駅まではフラットな道程だが、徒歩14分。都心への通勤時間もドア・ツー・ドアで1時間を優に超えるなど、単純な立地条件だけみると広域集客は難しく、“味付け”を間違えると、その規模もあり苦戦必至の立地に思える。
だが、同物件には、他の郊外大規模マンションがうらやむ、とっておきの「財産」があった。それは、その立地が「湘南ブランド」の発信地である「茅ヶ崎」ということだ。
「ご存じのように、茅ヶ崎はサーフィンカルチャーが根付いており、全国的にも高い人気を誇る飲食店など、個人経営のおしゃれな店がたくさんあります。また、住民も地元に深い愛着やこだわりを持っており、まちの文化を大事にしながら、豊かなコミュニティを育んでいます。こういうまちに見せかけだけの“リゾート”を持ってきても、地元の支持は得られません。地元のコミュニティとマンションのコミュニティとを融合させながら、地元に愛されるリゾート感を表現したマンションをめざそうと考えました」と話すのは、同物件の企画を手がけた、同社首都圏第二支店事業推進二部推進三課主任の斎藤美由樹氏。
こうしたコンセプトを推進するにあたって、同社は入居者のイメージを、“茅ヶ崎というまちのイメージを愛し、趣味を大事にしたライフスタイルを実現する人(同社は、“アイランダー”と呼称している)”とし、そのアイランダーと地元の住民とに愛されるマンションづくりをめざした。
「まちの魅力」をマンションで実現
では、同社がこのマンションに仕かけた『味付け』を紹介していきたい。
最大の特徴は、地元の人々が愛する茅ヶ崎というまちの魅力を、「地元の人たち」の協力を得て、マンション内で実現してしまおう、という試みだ。
マンションの玄関口に設置したコミュニティスペースでは、月1回「朝市」を開催。地元農家や全国区の人気を誇る地元のレストラン、ワゴン販売店などが出店することで、「茅ヶ崎の魅力」をマンション内で実現、地元住民との交流も促す。地元サーフショップやフラダンス教室とタイアップし、住民向けのクラブサークルやカルチャー教室も開催する。
また、共用棟のカフェでは、湘南唯一の酒蔵「熊澤酒造」の「湘南ビール」や同社の手がける「MOKICHI」パンを提供する。「湘南ビール」は、マンションオリジナルラベルで販売するという熱の入れようだ(ちなみに、管理会社の大京アステージ(株)は、この共用棟でアルコールを販売・提供するため、わざわざ酒類販売の免許を取得する予定だという)。
多種多様なライフスタイル(や趣味)を持ったアイランダー同士のコミュニケーションを図る工夫も盛り込んだ。
共用棟にはフィットネススタジオ、ミュージックルーム、スタディルームなどを設置。サーフボードやバイク、自転車の整備に使えるメンテナンスルームも設けており、同じ趣味を持つ入居者同士が交流できる仕かけとなっている。
これらを舞台にカルチャー教室や学習教室が開かれるが、さらに踏み込んだ提案も行なう。
「828世帯もあれば、多種多様な趣味をお持ちの方がいっぱいいらっしゃいます。そうした趣味をいかして、入居者自身が講師になってスクールを開催する空間としても活用していただきます。」(同氏)。
大規模マンションのコミュニティ活性化提案はいろいろあるが、ここまで踏み込んだものは少ない。「当社単独事業であること、用地取得から販売開始まで2年間いただけたこともあり、じっくりと、そして大胆に提案させていただきました」(同氏)。
「コスト意識」徹底し 快適設備を充実
一方、肝心要の住戸についても、きっちり手をかけている。
同物件が、大きなテーマとしたのは「コスト意識」。「このマンションを選択される方々は、趣味を我慢してまでマンションを買おうとは思わないはず。コスト意識を徹底し、いかに安価で価値あるものを提供するかを考えました」(同氏)。
住戸のプランニングにあたっては、(1)LD10畳以上、(2)主寝室6畳以上、(3)風呂サイズ1317以上、(4)キッチン幅2,400ミリ以上、といった基本スペックを定め、3LDK・65平方メートルを最低面積としたうえで、建物フレーム・配棟を決めていくという「逆転の発想」を取り入れた。そのため、一般的マンションのように、フレームに無理矢理合わせ、間取りがいびつになるケースが無くなり、専有面積が小さくても無駄のない間取りが実現できた。設計がシンプルになれば、建築コストも当然安くなる。加えて、通常地下に埋設される各種設備ピットも、広い敷地をいかして地上に出し、建設費を抑えた。
逆に、個々の住戸については、食洗機、ディスポーザー、床暖房、リビングへのワイドサッシュといった快適設備を標準化。エコガラスやエコシャワーヘッド、節水トイレ、エネルギーの「見える化サービス」、
ドライミストといったエコ設備も充実させている。
これらの工夫により、快適設備を盛り込みながら、販売価格を60平方メートル台で2,600万円台から、70平方メートル台で2,900万円に抑えた。周辺エリアの戸建住宅とも、充分競争できる価格だ。
「湘南ブランド」が広域集客呼ぶ
反響はどうか?
今年ゴールデンウィーク前のプレセールスから現在までの来場者数は2,000件を突破。先行開発されている1街区404戸のうち、300戸弱の販売を終了している。間取りや専有面積から、購入者の中心が20~30歳代のニューファミリーであることは想像がついたが、驚いたのは購入者の従前居住地。地元茅ヶ崎市は当然トップだが、横浜市や川崎市と合わせた神奈川県全体でも、シェアは30%に過ぎない。東京都の15%を合わせ、ようやく半数、残りが他の首都圏等からの購入者なのだ。地元と周辺からどれだけ購入者を集められるかが勝負の一般的郊外型マンションとは、明らかに異質な現象だ。
「北海道や九州にお住まいの方もいらっしゃいます。海が好き、茅ヶ崎というまちが好きという方は当然多いですが、当マンションのさまざまな提案をご覧になり“住まいを変えることで、生き方も変わる”と期待されてご購入になる方も多いですね」とは、現地で販売を担当する同社首都圏第二支店営業七部営業第一課長の遠藤 亮氏の弁。
まさしく、全国にとどろく「湘南(茅ヶ崎)ブランド」と、同社のライフスタイル提案の「合わせ技の勝利」といえそうだ。(J)