記者の目 / 開発・分譲

2011/2/17

創造性で「日本経済を元気に」

「クリエイティブ・シティ」をめざす東京・二子玉川の可能性

 日本の国際競争力が低下しているといわれて久しい。スイスのビジネススクールの経営開発国際研究所(IMD)が昨年発表した「2010年世界競争力年鑑」によれば、日本は09年の17位から27位に急落。10年の国内総生産(GDP)も中国に抜かれ、日本は世界第3位に転落した。  こうした日本経済の低迷を打開する突破口として、以前から注目されているキーワードの1つが「創造性」だ。経済や社会の成熟した日本において、商品の機能や性能に加え、新たな価値を付加する能力、つまり創造力が今後さらに求められてくると考えられているからだ。

クリエイティブ・シティ・コンソーシアムの活動拠点が設けられる「二子玉川ライズ・オフィス」から見た多摩川。周辺では都内最大級の規模となる再開発事業(開発面積11.2ha)が進められている
クリエイティブ・シティ・コンソーシアムの活動拠点が設けられる「二子玉川ライズ・オフィス」から見た多摩川。周辺では都内最大級の規模となる再開発事業(開発面積11.2ha)が進められている
空気の澄んでいる日は富士山も見える。都心のオフィス街にはないこうした眺望が心を癒し、新たな発想を呼ぶという
空気の澄んでいる日は富士山も見える。都心のオフィス街にはないこうした眺望が心を癒し、新たな発想を呼ぶという
オフィスフロアに設けられた休憩室。窓外から二子玉川のまちを一望できる
オフィスフロアに設けられた休憩室。窓外から二子玉川のまちを一望できる
日本の国際競争力を維持・向上させるためには、「一人ひとりの価値生産価値能力を高めていくしかない」と話す慶應義塾大学政策・メディア研究科准教授の金 正勲氏。イラストを交えて産業構造の変遷を解説した
日本の国際競争力を維持・向上させるためには、「一人ひとりの価値生産価値能力を高めていくしかない」と話す慶應義塾大学政策・メディア研究科准教授の金 正勲氏。イラストを交えて産業構造の変遷を解説した
同フォーラムでは、コンソーシアムの活動拠点「(仮称)カタリストフロア」の図面が紹介された。「二子玉川ライズ・オフィス」の8階に設けられ、会員企業を中心に、クリエイターや行政および投資関係者などが交流できるオープンな場とする計画
同フォーラムでは、コンソーシアムの活動拠点「(仮称)カタリストフロア」の図面が紹介された。「二子玉川ライズ・オフィス」の8階に設けられ、会員企業を中心に、クリエイターや行政および投資関係者などが交流できるオープンな場とする計画
ペットを同伴できる職場など、創造性を生み出すオフィス環境の例も紹介された。遊びや学びから仕事の発想、ひらめきが生まれることもある
ペットを同伴できる職場など、創造性を生み出すオフィス環境の例も紹介された。遊びや学びから仕事の発想、ひらめきが生まれることもある

不動産事業では「創造都市」や 創造性を引き出すオフィス環境の整備が進む

 不動産事業でも、「創造都市」の整備や新たな発想を生み出すオフィス環境の創出をめざす動きが見られるようになってきた。

 その一つに、東京急行電鉄(株)など6社が発起人企業となって10年8月に設立された「クリエイティブ・シティ・コンソーシアム」(法人会員52社)の取組みがある。東急田園都市線・大井町線「二子玉川」駅東地区で進められている再開発エリアを社会実験のモデル地区として、クリエイティブ産業の集積に必要な都市環境の要件を検討していこうというもの。

 1月26日には、「クリエイティブ・シティ・フォーラム2011」が開かれ、基調講演や公開討論などを通じて、取組みの意義などが紹介された。
 少子高齢社会が進行し、労働力人口が減少するなかで、新しい価値を生み出す産業の育成が急務と言えるだろう。フォーラムの内容などから、「二子玉川」の可能性について考えてみたい。
 

「異質」に寛容な環境が 新たな価値を生み出す

 そもそも「創造性」とは何か。フォーラムで講演した慶應義塾大学政策・メディア研究科准教授の金正勲(キム・ジョンフン)氏は「新しくて、社会にとって意味や価値のあるもの」と定義し、「創造都市」に求められる要素として、「talent(才能) ・technology(技術) ・tolerant (寛容)」の“3つのT”をあげた。

 「寛容な都市」は、「表現者、多人種(民族)、同性愛者」の存在が指標になるとされ、多様な人を引き寄せる触媒の役割を果たすという。
 名画「ひまわり」で知られる画家フィンセント・ファン・ゴッホの絵画が生前1枚も売れなかったことなどを例に、「新しいモノ(コト)」は当初、既存の社会を驚かす異質な存在の場合もあり、その後、摩擦と容認、社会の認証を経て文化や芸術になっていくなどと説明。これからの都市の役割の1つに、「異質なもの同士の接点を提供すること」をあげた。
 
 今後、「二子玉川」がクリエイティブ・シティの実現をめざすのにあたって、さらなる多様性を受け入れられるか、「まち」として包容力が試されることになる。その点について金氏は「自然に恵まれ、人々の生活感があふれている」などと二子玉川の印象を語り、多様性を育む素地のあることに期待を寄せた。

4月に活動拠点を設置。 近未来のワークスタイルを研究

 具体的な取り組みもいよいよ動き始める。11年4月には、同開発区域内で東京急行電鉄と東急不動産(株)が開発し、10年12月に開業した複合ビル「二子玉川ライズ・オフィス」(東京都世田谷区)内に同コンソーシアムの活動拠点「(仮称)カタリストフロア」(約130坪)が設けられる。

 フォーラムでは、会員企業からなるワーキング・グループ(WG)が拠点の概要を発表。約100人を収容できる円形のセミナースペースや、窓辺でリラックスしながら仕事に取組めるワークスペースを設ける計画を明らかにした。

 同拠点では今後、「個人や企業が、近未来にどのような働き方やライフスタイルを望むのか」などについて、企業の枠を超えて研究していくことになる。コクヨファニチャー(株)など会員企業が実際に同拠点のオフィスで協働し、創造性を発揮しやすい次世代オフィス環境を構築する実証実験「クリエイティブワーク社会実験」を行なうほか、来街者が創造性を体験できる場や勉強会「(仮称)ニコタマカレッジ」を設置する計画。個人や企業が持つさまざまなアイディア・経験・資源が集結することで、新しい価値を創出する「場」が生まれ、そこからクリエイティブ・ワークを支援する環境や新たなツールの誕生にもつながっていくという。

 そのほか、「スマートシティ」、「次世代メディア・ネットワーク」、「位置情報サービス」、「生活・健康情報活用サービス」、「ICカードを活用したコミュニティの創造」、「環境にやさしい都市」を研究するWGがプロジェクトを推進中。今後、社会性・革新性・経済性が見込める新たな研究テーマも追加していく予定だ。

地域住民の参加で「創造性」の輪を 広げられるかがカギ

 ただ、こうした取り組みの成否は、地域住民の参画を促すムーブメントを引き起こせるかどうかがポイントになる。
 フォーラムで金氏も、事業者側が一方的にハードやソフトなどによる活動の「場」を提供するのではなく、地域住民の主体的な参加によって「場」を作っていくことが活動を広げていく原動力になると指摘、「(地域住民が)場を育み、その場によって育まれる循環を作り出すことが大事」と述べた。

 同コンソーシアム会長の小宮山 宏氏((株)三菱総合研究所理事長)もフォーラムの挨拶で、“市民の力”を強調、クリエイターと地域住民が一丸となって社会実験を進めていく方針を明確にした。

東京・丸の内、大手町を超えられるか、 今後の動向に注目

 同コンソーシアムがめざす「クリエイティブ・シティ」のイメージは、「東京・丸の内、大手町、銀座を超えるビジネスを創造するまち」。今後、15年ころまでにクリエイターやイノベーターが集い、新しい価値と産業を生む都市モデルを構築、同コンソーシアムでは、都市整備の事例として日本だけでなく海外にも広く伝えていきたい考えだ。

 フォーラムで小宮山氏は「日本を何とか元気にしたい」と述べたうえで、近い将来、「(二子玉川が)世界の都市モデルになっていく可能性があるという意識を持って活動を進めていきたい」と力強く語った。
 都心から離れた言わば「田園都市」に、企業や人材がいかにして集積され、「クリエイティブ・シティ」が形成されていくのか、日本経済の閉塞感打破への期待を込め、今後の動きに注目したい。(M)

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【関連ニュース】
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