マンションの概念変えた「グランフロント大阪オーナーズタワー」
「マンションにおけるホスピタリティを突き詰めると、(高級)ホテルになる」とは、記者のマンション取材における師匠の言葉だ。まさしく、この言葉通りのマンションが、ヴェールを脱いだ。大阪最後の一等地「北ヤード」エリアで開発が進む、「グランフロント大阪オーナーズタワー」(大阪市北区、総戸数525戸)がそれ。これまでの「ホテルライクなマンション」は、すべて「マンション」から発想されたものだが、このマンションは「高級ホテル」が発想の原点にある。マンションの概念を180度変える物件になりそうだ。
最後の一等地、「梅田北ヤード」唯一のマンション
まず、ごく簡単に、同物件の概要を紹介しておく。
建設地は、JR「大阪」駅から徒歩6分、俗に「大阪最後の一等地」と呼ばれる「梅田北ヤード地区」の先行開発地域内に立地する唯一のマンションとなる。事業者は、プロジェクトリーダーの積水ハウス(株)を筆頭に、NTT都市開発(株)、東京建物(株)、三菱地所レジデンス(株)など大手ディベロッパー・ゼネコン12社。建物は、地上48階建ての超高層タワー。第1期として販売されるのは、高層階部分の専有面積89~300平方メートルの住戸で、販売価格も8,000万円台~4億円台と破格だが、今後発売される中低層部では3,000万円台のコンパクト住戸もラインアップに加わるという。
立地が立地だけに、仕様が超高級となることは容易に想像できた。また、通常のファミリー層ではなく、いわゆる「エクゼクティブ」に分類されるシングルやDINKS層を狙っていくことも、想像できた。だが、事業者が「ザ・ホテル」と名付けたコンセプトの奥深さについては、まったく想像できなかった…。
同物件のプロジェクトリーダーである積水ハウス大阪マンション事業部・萬年 優氏の言葉を借りて説明すれば、「すべてが“ホテル”を起点にして考えられたマンション」。つまり、「ホテルのようなマンション」ではなく、「ホテルをマンションにする」ということであり、これまでの「ホテルライクなマンション」とは似て非なるものだという。
「従来のマンションは、その多くがファミリー層、つまり“主婦”のニーズをもとに作られてきたもので、それがたとえ、ホテルライクな仕様であっても、間取りがほとんど同じだったりしました。ホテルというのは、万人に快適な空間です。このホテルの快適空間に最低限の工夫を施し生活の場として成立させたのが、当物件です」(萬年氏)
ターゲットの想像は概ね予想通りだったが、事業者がメインに考えたのは「生活の拠点が別にあり、大阪都心部でホテル代わりの拠点として使ってもらう」(同氏)というセカンドニーズ。だからこそ、後述していくような大胆な割り切りができたのだと思う。
部屋の面積で「高級」を規定しない
記事を書くため、大阪・中之島にある「レセプションハウス」と名付けられたモデルルームを訪れた。が、現地にはそれらしき看板も案内も見当たらない。目の前には、北欧の大使館か迎賓館のような建物が建っている。「まさか」と思い巨大な扉の前に立つ。自動ドアがゆっくり開くと、そこがモデルルームであった。完全予約制。ターゲットを限定しているから、通常のマンションのように、現地でアピールする必要もないわけだ。
中に案内されて、また驚いた。高級ホテルのロビーとラウンジのような空間が広がっていたからだ。聞けば、実際の物件に用意される「ザ・レセプション」(エントランスロビー)と「ザ・リビング」(ラウンジ)が“本物と同じ調度品”で作られているのだという。
モデルルームは、全部で4戸あった。それぞれの設備仕様の素晴らしさについては、細かく説明する意味はあまりない。なぜなら、戸あたり数千万円規模の造作を施したものもあり、個々の住戸の仕様差が激しいからだ。ただ、ベースとなるグレード感は、高級ホテルのそれであり、建具・扉類はすべて突き板、天然石も多用されている。評価できるのは、こうした仕様が、今後供給されるコンパクト住戸でも共通となること。「億住戸はホテルのように高級でも、面積が小さい住戸は普通という、従来のホテルライクなマンションとは違う。小型車から大型車まで高級感のある“レクサス”のようなもの」(同氏)
だが、同物件の本当のキモは、“間取り”についての斬新な考えかたにある。
プライベートとパブリックをエリアで分ける
通常のファミリーマンションは、玄関を入り廊下を隔て、リビングとダイニングキッチンとベッドルームなどの個室が離れて配置されている。個々のプライバシーを尊重すると必然的にこうなるのだが、「客間」であるはずのリビングには、どうしてもキッチンが隣接することになり落ち着きがなくなる。たとえ「ホテルライク」と呼ばれるマンションでも根本的には変わりがない。
これに対し、「高級ホテル」を起点としている同物件は、パブリックとプライベートをエリアごとに分けている。玄関を入った場所は「ホール」と位置づけ、まずその奥に「客間」となる「パーラーダイニング」を配置。来客を招いたり、日常過ごしたりする空間と位置付ける。そして、その奥にベッドルームや洗面・浴室といったプライベート空間を隣り合わせで配置しているのだ。こうすることで、客をプライベートな空間に一切触れさせることなくパーラーに招き入れることができるし、パーラーの客に悟られることなく身支度もできる。
一方、「ホテルにはない」ものは、完全に脇役扱い。キッチンは、バックヤードに徹している(グレードが低いわけではない)。「ここにお住まいのかたは、ケータリングなどの利用頻度が高いはずで、プライオリティは低いと判断した」(同氏)という。収納率も低く、その分空間の広さを重視している。居室に入って感じたのが、壁量の多さ。壁が増えると包まれ感が増して落ち着いた雰囲気になるのがわかった。
モデルルームを出るとき、萬年氏から声をかけられた。「Jさん、気が付きましたか?」。…何を言われているのかまったくわからなかったので聞いてみると、「玄関ドアですよ」。言われて、ハタと気が付いた。「内開き」だった。
通常のマンション(というか日本の家)では、たたきに靴が並ぶため例外なく玄関は外開きとなる。このマンションは、玄関内は「ホール」でありSICを別に設けている。実際、靴で上がることはないだろうが、パブリック空間であるパーラーと一続きになっているため、ホテルと同じような内開きになっているのだった。
◆ ◆ ◆
取材を終わって考えた。「万人受けではないが、一定のユーザーに圧倒的支持をうけそうだ」と。言うまでもないが、通常のファミリーは無理だ。シングルやDINKSもある種の割り切りは必要かも知れない。逆に、「月の半分は大阪にいるエクゼクティブ」とか「優雅に老後を送る富裕層」などにはぴったりだと思う。詳細は聞けなかったが、ハードに負けないだけのホスピタリティサービスも提供されるようだ。
「都心の高級ホテル暮らし」というのは、都心居住のいわば頂点といえるが、その領域に本気で踏み込んだ点で、このマンションは画期的と言えそうだ。(J)
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