会社更生終了後初の大規模「行徳」を見る
リーマンショック後、個性的な分譲マンションを供給するディベロッパーが、資金繰りの悪化や用地取得の困難さから、瞬く間に市場から退場させられていった。いつしか市場は大手ディベロッパーの寡占となり、商品企画の面白みが薄れた感がある。そうしたなか、独自のアイディアと大胆な商品企画で同業他社の度肝を抜いたディベロッパー、日本綜合地所(株)が、会社更生を経てついに第一線へ帰ってきた。会社更生終了後初の大規模マンション「ヴェレーナシティ行徳」(千葉県市川市、総戸数364戸)は、そんな同社の個性とアイディアが詰まった、“復活”を印象付けるにふさわしいマンションだ。
独自の商品企画で一世風靡も、破たん、そして再生
日本綜合地所は、どういうディベロッパーか?。一言でいえば、「大手ディベロッパーと商品企画で互角に渡り合った会社」と表現できる。
同社は、他社が思いもつかないようなアイディアをどんどん具現化していった。その代表例が2004年に商品化した「オープンエアリビング」だ。リビングから折り戸式全開口サッシュでアプローチできる、大型のサンバイザーを備えた専用庭で、とかく商品力が弱かった1階住戸が高層階より高値で売れるようになった。また、どの物件も、南欧風のマンション外観をアイデンティティとし、強烈な個性を放っていた。
郊外での大規模マンション開発でも、大胆な商品企画を持ち込んだ。駅遠などのハンデを克服するため、専有面積を思い切って広げ、メーターモジュールの廊下、10畳大の寝室など、生活空間のゆとりで差別化。「100平方メートル」マンション市場を牽引した。なかでも、同業他社が度肝を抜かれたのが、03年販売開始の「レイディアントシティ横濱」(横浜市金沢区)だ。総戸数1,805戸と当時首都圏最大級の民間分譲マンションで、全戸数の8割が専有面積100平方メートル超。平均専有面積も100平方メートルを超えていた。前述の「オープンエアリビング」や南仏風のまち並み、ゆとりの間取り、多彩な共用施設、コミュニティサービス、そして100平方メートルマンションが3,700万円台で買えるという値ごろ感で、バス便・工場跡地のハンデもはねのけ、2年弱で完売させた。
この「横濱」と相前後して、同社はマンション供給ランキング上位に進出。ピークには、年間2,500戸を供給。08年3月期には、売上高1,200億円に迫った。だが、そこにリーマンショックが勃発。売れ行き低迷と過大な用地仕入れのダブルパンチで、09年2月、2,000億円近い負債を抱え、会社更生法申請を余儀なくされる。その後は、(株)大和地所の支援のもとで、完成在庫の解消と、小規模物件中心ではあったが新規事業用地取得と販売も行なってきた。その努力が実を結び、12年10月に会社更生手続きを終了した。
独自の商品企画力で一世を風靡した同社が、いよいよ大規模マンションの分譲を再開するというのだから、注目しないわけにいかない。
マンション単体から医療施設・商業施設との一体開発に
「ヴェレーナシティ行徳」は、東京メトロ東西線「行徳」駅バス6分バス停徒歩7分に立地する、鉄筋コンクリート造地上11階建て171戸と鉄筋コンクリート造地上12階建て193戸の2棟で構成される大規模マンション。東京メトロ東西線「妙典」駅から、マンション内にバスの開設が予定されている。
約6万7,000平方メートルの開発地は、リーマン前の07年に取得したもの。取得当時は、敷地すべてをマンションとする予定だったそうだが、時代の変化に合わせ、競争力を高めるための複合開発にシフト。マンションは総戸数364戸にとどめ、敷地の一部を、医療街区・商業街区として、総合病院とスーパーマーケットを誘致することにした。東南方向に大形の工場があるのがネガだが、駅方向は低中層の住宅街が続いており、環境はそれほど悪くない。湾岸立地だけに地盤リスクの解消にも念を入れており、入念な地盤調査と、念のため液状化対策は施してある。
規模を縮小したとはいえ、総戸数364戸というマンションである。スケールメリットを生かし共用施設とサービスを充実させた。「都市部にはゴルフ練習場が少なく料金も割高なので、気軽に練習ができる設備にニーズがあると判断した」(同社経営企画室長・横山淳二氏)というシミュレーションゴルフ・シアター付きのプレイルームは目新しいが、パーティルームなどのコミュニティ施設と、防災倉庫やかまどベンチ・飲料水生成機などの防災設備、コンシェルジュサービス、カーシェアリングサービス、レンタルサイクルなどの入居者サービス、コミュニティ活性化や防災のためのイベントサポート等は、今や当たり前。太陽光発電パネルと一括受電を併用し、電気代を約8%削減する仕組みも、最近のトレンドだ。
そうしたなかで、記者が期待するのは、やはり「綜合地所ならでは」の商品企画。果たして、記者の期待通り、きちんと用意されていた。
圧巻の「オープンエアリビングバルコニー」
まず、外観は、同社が最も得意とする、ベージュやライトブラウン、オフホワイトを基調にした南欧風モチーフのデザイン。建物周囲を取り巻く、噴水をしつらえた石張りの庭園をはじめとした4つの庭園もすべて欧風。エントランスホールやラウンジ等も、ヨーロッパのホテルを思わせる造りとなる。
住戸は、3LDK。専有面積約70~90平方メートル。スパンも6m台が中心、間取りも田の字プランが標準のごく平均的なファミリー仕様だが、よく見ていくと、同社の個性が随所に盛り込まれている。
施工は(株)長谷工コーポレーションだが、室内の建具や収納類の部材やフローリングの色・デザインは、同社が細かく指示したオリジナル。住戸面積に関係なく廊下はメーターモジュールを採用しているのも特徴だ。
そして、ユーザーを虜にする真打が、同社の実用新案である「オープンエアリビングバルコニー」だ。これは「オープンエアリビング」を2階以上の住戸で実現することを目指して同社が開発したもので、「オープンエアリビング」同様、折り戸全開口サッシュで居室と仕切られた、ウッドデッキ敷きの10畳大のバルコニー。室内との段差はまったくなく、部屋の延長として使えるほか、建築基準法の容積不算入のルールをうまく使い、居室面積には算入されない。
記者も久しぶりに同バルコニーを目にしたが、初めて目にした感動が瞬く間に蘇ってきた。今マンションを探しているユーザーのほとんどは、このバルコニーを初めて目にするはずで、そのインパクトは大変なものだと思う。「1日でいくつも物件を回られるお客様は、自分がどのマンションを見たかほとんど覚えていませんが、オープンエアリビングバルコニーがあるだけで『ああ、あのバルコニーのマンションね』と記憶に留めていただけます。これは大きい」(同氏)。
惜しむらくは、バルコニーの両側を開放しなければならないため、採用住戸が69戸に限られていることだが、その代わり、1階住戸の「オープンエアリビング」も、21戸で導入されている。
反響は上々だ。2月9日からのプレセールスで700件以上の事前反響を得ており、同月中旬から1期1次30戸の販売を開始した。販売価格は、2,600万円台から。坪単価126万円。少し慎重すぎやしないか、と活を入れたくなる気もするが、「確実にニーズが見込める分だけを販売していきたい」(同氏)ということらしい。前述の「横濱」など、優れた完成物件を見込み客に見学させたりすれば、説得力も増すだろう。
ともあれ、久々にマンション市場の最前線に帰ってきた同社を、温かく見守っていきたい。(J)
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